第417話

「おおっ、シレイア! 久しぶりだな。会いたかったぞ!」


 ジョット達が宇宙港の職員に案内されて来客用の部屋に行くと、そこにいた皇帝が満面の笑みを浮かべてシレイアを迎え入れた。しかし皇帝の目にはシレイアしか映っていない様子で、ジョットにいたってはあえて無視しているようであった。


 以前の決闘騒ぎでジョットを敵視しすぎた件を注意されたのに全く懲りていない皇帝に、ジョットは呆れてもはや何も言う気がなくなっていた。だがマリー、マーシャ、セレディス、シレイア、カーリーといった彼の妻と婚約者達はそうではないようで、怒りの視線を皇帝に向けるのだった。


 そしてジョット達から少し離れた場所ではベックマンが、皇帝と一緒にこのコロニーへとやって来た大清光帝国の高官に非難するような視線を向けていた。


「(これは一体どういうことなんですか? 皇帝陛下がここに来るなんて話、聞いていませんけど?)」


「(すまない。どこからかシレイア様が祭夏君達と今回のトライアルに参加するという話を聞いた途端、いきなり自分もコロニーに行くと言い出して……。急な話すぎて止めることも君に連絡することもできなかった)」


「(……そうですか。とりあえず今はそれで納得しますけど、これからどうするんですか? まさかトライアルの最後まで視察するつもりなんですか?)」


「(……本人はそのつもりのようだ。急な政務はすでに片付けているし、このトライアルの視察も軍の次期採用機を見極めるという点では立派な政務の一つだからな。私では止められない)」


「(いや、そこは止めてくださいよ!? 前に皇帝陛下がジョット達に何をしたか覚えているでしょう?)」


「……サンダース様。なにやら向こうでベックマン様と高官の方が無言で見つめ合いながら表情を何度も変えているのですけど、一体どうしたのでしょうか?」


「ああ、あれは視線と表情で意思疎通をしているだけですよ。ルヴィアさんは気にしなくてもいいですから」


 非常事態のため視線だけでこれからどうするのか相談しているベックマンと高官の姿を見てルヴィアが聞くと、サンダースが「よくあんな器用なことができるな?」と思いながら答える。


「それでお父様はどうしてここへ? 政務もあるはずですから、そろそろお帰りになられた方がよろしいのでは?」


 シレイアが目が笑っていない笑みを浮かべて怒りの視線を向けながら皇帝にそう言うのだが、娘に会えたことがよほど嬉しいのか、皇帝はシレイアの怒りの視線やトゲのある言葉にも気づいていないようであった。


「はははっ。安心しろ、シレイア。これも政務の一環だし、しばらくはお前と一緒にいられるぞ。というか、こうでもしないとお前はいつまでも顔を見せにこないからな?」


「そうでもないですよ? ……ジョット様と結婚した後の新婚旅行と子供ができた時には顔を見せに行く予定だったのですから」


「それ、儂にとって最悪のシチュエーション!? というかそれだと儂、結婚式に呼ばれてなくないか!? ……!」


 皇帝の言葉にシレイアが顔を僅かに赤くしてジョットの方を見ながら言うと、皇帝は自分の扱いの悪さに愕然とした後、恨みの籠った視線をジョットに向けた。


(ああ……。何だか、また嫌な予感がするな……)


 皇帝から恨みの籠った視線を向けられたジョットは心の中で呟き、そんな彼が感じた嫌な予感は後日見事に的中するのであった。

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