第416話
「こ、皇帝陛下が一体どうしてここに……!?」
シレイアが自分の父親、大清光帝国の皇帝がこのコロニーにいると聞いて、ジョットは相変わらずの無表情だが内心では会いたくなかったという気持ちで一杯であった。そしてそれは彼だけでなくジーナとマリー、マーシャセレディスも同じようで、全員が顔を盛大にしかめていた。
とても自国、あるいは同盟国の皇帝に向ける感情ではないのだが、以前皇帝が娘のシレイアのことで暴走してジョットに無茶苦茶な決闘を申し込んだ事を考えれば仕方がないだろう。
「分かりません。ですがここにお父様が来ているのは間違いありません。……ジョット様、くれぐれ気をつけてくださいね?」
「………分かった。どうやら着いたみたいだし、降りようか?」
また以前の無茶苦茶な決闘のようなことをしでかすかもしれない。父親である皇帝を全く信用していないシレイアが心配そうにジョットにそう言うと、彼は内心で嫌な予感を感じながら頷く。そんな話をしている内に、自動操縦で動いていた魅火鎚が宇宙港から指示された停泊位置に到着して、ジョット達は魅火鎚から降りることにした。
宇宙港は軍人達だけでなく今回のトライアルに参加する兵器メーカーの社員達の姿も多数あり、軍人達と兵器メーカーの社員達は今回のトライアルに関する話をしていたのだが、ジョット達が宇宙港に入ると全員が話を中断して彼らの方を見た。
「おい、あれって……?」
「祭夏・ジョット。シレイア様。何であの二人がここに……!?」
「一緒にいるのは確か正銀工房のシャルロット嬢じゃないのか。……そう言えば確か、シャルロット嬢も真道学園の生徒だったはず。傭兵学徒として祭夏・ジョット達を雇ったということか?」
「護衛に雇ったとしては過剰戦力な気がするが……しかしあの祭夏・ジョットやシレイア様もトライアルに参加するのだったら……」
「ああ、皇帝陛下も視察に来てくださったし、これで今回のトライアルは公平に行われるだろうさ」
宇宙港にいる軍人達や兵器メーカーの社員達がジョット達の方を見ながら何やら話をして、それを聞いたジョットが首を傾げる。
「なんか、妙に注目されているんだが一体どうしてだ?」
「お兄ちゃん……」
「旦那様。いい加減、辺境コロニー群の一般市民であった過去に囚われるのは止めた方がいいと思われますが?」
ジョットの呟きにジーナが脱力したように言い、ムムが自分の主人と同じ無表情で口を開く。
「ムム?」
「旦那様はアレス・マキナの機士であり、大清光帝国とリューホウ王国の二つの国で爵位を持つ貴族でもあり、もはやただの一般市民とは大きくかけ離れた存在なのです。更に兵器メーカーの令嬢と結婚している上に、大清光帝国の皇女とアレス・マキナの機士、リューホウ王国の上位貴族の令嬢二人と婚約している話題の塊なのですから、軍人や兵器メーカーの人間で旦那様のことを知らない者はまずいません」
『『……………………………』』
ムムの言葉にジョットに同行している全員が同時に頷く。
ジョットも自分が貴族になったことは理解しているつもりではあるのだが、領地経営などの貴族らしい仕事や働きをしていないせいか、いまいち貴族の自覚が芽生えていないのだった。そしてこの貴族の自覚の無さがジョットがトラブルを呼び起こす要因の一つだと見抜いていたベックマンは、胃を押さえながら前途多難だと心の中で呟いた。
すると宇宙港の職員だと思われる一人の男が大急ぎでジョット達の前まで走ってきて話しかけてきた。
「し、シレイア様。それにジョット様達、お待ちしておりました。皇帝陛下がお待ちしておりますので、どうぞこちらへ」
『『………………………………!』』
宇宙港の職員の言葉は、ジョット達が今一番聞きたくない大清光帝国の皇帝からの呼び出しであった。
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