第498話

「……なんだか変な気分ね」


 マーシャ、セレディス、シレイアが機体を前進させると、それまでジョットのアレス・グラディウスと戦っていた6567番の宇宙戦艦とミレス・マキナの群れの一部が彼女達の方へと向かい始め、マーシャは自分に殺到してくる数機のミレス・マキナを見ながら呟く。


 過去に二度ゲムマに殺されかけたマーシャはそのトラウマから接近してくる敵に恐怖感を抱くようになり、こうして敵が迫って来ている今も恐怖を感じているのだが、それと同時に新しい機体を試せることに喜びと好奇心を抱いていた。


「やっぱり近づいて来る敵は怖いけど……それだったら近づかれる前に倒せば良いだけ。行くわよ『ミレス・ヒュドラー』」


 マーシャは自分の新しい機体の名前を呼ぶ。彼女の新しい機体、ミレス・ヒュドラーは彼女が以前使っていた銀色の甲冑を身に纏った女騎士のようなミレス・マキナとほとんど同じ外見をしていたが、背中には巨大な円盤のようなバックパックがあり、更にその背中の円盤は数本の巨大な蛇腹剣と繋がっていた。


 マーシャが円盤と繋がっている数本の蛇腹剣の一本に意識を送ると、その蛇腹剣は彼女の意思に従い獲物に襲いかかる蛇のような軌道を描いて向かって来るミレス・マキナを容易く斬り裂く。しかもそれだけでなく、マーシャが操っていない他の蛇腹剣もまた自らの意思で動いて、死角から襲撃しようとしていたミレス・マキナを斬り裂くのであった。


 そんな一歩も動かずに敵を一方的に斬り裂くマーシャとミレス・ヒュドラーの姿を見て、セレディスは頼もしげな笑みを浮かべた。


「マーシャも中々やるじゃないか? これは私達も負けられないな、『ミレス・スパルトイ』よ?」


 セレディスの新しい機体、ミレス・スパルトイもマーシャのミレス・ヒュドラーと同じく、以前使っていた真紅の甲冑を身に纏った女騎士のようなミレス・マキナとほとんど同じ外見をしていたが、背中には以前の機体にはなかった巨大な獣の牙のような外見の武装が複数装備されていた。


「それでは早速試し斬りをさせてもらおうか!」


 セレディスの意思に応え、ミレス・スパルトイは彼女の以前のミレス・マキナも使用していた

弧を描くような刀身をした両刃剣を抜くと6567番が操るミレス・マキナと宇宙戦艦に向かって突撃を開始する。すると6567番の数機のミレス・マキナがミレス・スパルトイを取り囲むのだが、それに対してセレディスは特に慌てた様子は見せなかった。


「後ろは任せたぞ、お前達!」


 セレディスがそう言うと、ミレス・スパルトイの背中にある複数の獣の牙のような外見の武装が機体から離れ、それからすぐに牙のような外見の武装は全て剣を持った兵士のような外見のロボットへと変形する。牙のような武装から変形した兵士のロボット達は、背後や上空と言った死角からミレス・スパルトイを襲い掛かろうとした6567番のミレス・マキナへと向かって手に持っている剣を振るう。


「踊れ! お前達!」


『『………!』』


 兵士のロボット達はセレディスの言葉に従い、まるで踊るような動きで剣を振るい敵を斬り裂いていく。その動きはセレディスが習得して機体にも入力してある剣術の型の動きであった。


 セレディス達リューホウ王国の機士は機体に自分が習得した武術の型、モーションデータを入力してそれを状況に応じて使い分ける戦い方を得意としている。そしてミレス・スパルトイは本体だけでなく子機である兵士のロボット達にもセレディスが習得した剣術のモーションデータが入力されていて、それによって以前の機体と比べて遥かに高い攻撃力を得たセレディスは敵を斬り裂きながら戦場を駆け巡るにだった。

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