第425話

「それにしてもこのミレス・コルヴォカッチャトーレ……。変形機能以外は本当に見るところがない機体よね」


 シレイアと皇帝が虹橋家の件について話していた頃。模擬戦場に到着したジョットがトライアルの開始時間がくるのを待っていると、通信機からマリーの声が聞こえてきた。


「整備性や量産性を考えたって言えば聞こえはいいけど、結局はそれって浪漫がある機能を削ぎ落として機体を単純なものにしたってだけでしょ? 頭が硬い正銀工房に自爆装置を付けろとまでは言わないけど、せめて戦闘機形態の時にスラスターを限界以上に稼働させて超超高速移動をする機能とかないわけ?」


「そんな機能を使ったらすぐに機体が駄目になるに決まっているでしょう」


 マリーの言葉の次にシャルロットの声が通信機から聞こえてくると、そのすぐ後に通信機はマリーの声でため息を吐いた。


「……はぁ〜。これだから正銀工房は駄目なのよ。使い手の安全が第一と言って機体に遊び心がなくて。危険を承知の遊び心が少しくらいあった方が使う人の行動の幅が広がるってこと分かってない」


「機体に遊び心があったら行動の幅が広がることもあるというのは知っていますけど、黒翼・ヘビー・マシーナリーは度を超えているんです。そもそも、その駄目な正銀工房に売り上げで圧倒的に負けているのはどこのどなたなんでしょうね?」


「あっ、言う!? そういうこと言っちゃう!?」


 通信機から聞こえてくるマリーとシャルロットの声が徐々にヒートアップしていくのを感じたジョットがどうやって二人を止めようと考えていると、戦闘機の通信機が別の人物からの通信が送られてきているのを報せてきた。ジョットがマリーとシャルロットの通信を一度切って新たな通信を繋ぐと、通信機から最近聞いた男の声が聞こえてきた。


「やあ、祭夏・ジョット!」


「……虹橋・エラン」


 通信機から聞こえてきたのはエランの声でジョットが彼の名前を呼ぶと、通信機はエランの声で話し出す。


「ああ、そうさ! まさか君がアレス・マキナではなくそのミレス・マキナを使っているのは予想外だったけど、同じ立場でトライアルに参加するってことはボクとの勝負を受けるってことだよね?」


「……そう思いたければそう思えばいい」


 エランの言う勝負とはこのトライアルで優れた成績を出せばシレイアをジョットから貰い受けるというもので、ジョットがいつもよりも冷たい声でそう言うとエランは高らかに笑った。


「ハハハッ! その強気な態度は嫌いじゃないよ。そしてボクの勝負を受けたその勇気をボクは称賛しよう! だが残念ながらこの勝負はボクの勝ちが決まっていて、シレイア様はボクのものさ!」


 どうやらエランの中ではすでに審査員である父親によって自分のミレス・マキナが次期主力機に選ばれることが決まっており、そして次期主力機に選ばれることはジョットよりも良い成績を出したことも同意義でシレイアを手に入れると思っているようであった。


 エランが勝ち誇った声でそう言って通信を切ると、サポートのために同じ戦闘機のコクピットに乗っているムムがジョットに話しかける。


「旦那様。本当にシレイア様を虹橋・エランに譲るのですか?」


「そんな訳ないだろ」


 ムムの言葉にジョットは即答する。


「俺は一度もエランの勝負を受けたなんて言ってないぞ。さっきだって『そう思いたければそう思えばいい』としか言っていないし、分かったなんて言ってない。……そもそも俺とシレイアの婚約は国が決めたことなのに、それに異議を唱えるってことは国の方針に反対しているってことだ。ムム、エランとの会話は全て記録しているな」


「はい。ご希望でしたら、他の記録媒体にも虹橋・エランの音声データを記録します」


「頼む。もしトライアルが終わった後でエランが何かを言ってきたらその音声データを使って一気に叩き潰す。……貴族は自分の発言には気をつけないといけないのに、アイツは随分と迂闊だな」


 貴族といった身分が上の者となれば、何でもないと思った発言一つで足元を掬われることもあるので、発言には十分に注意をしないといけない。これはジョットがマーシャとセレディスとシレイアにいつも言われていることであり、婚約者達からの教育の成果を見せたジョットにムムは内心で驚いていた。


「旦那様。そこまで言うということは本気で虹橋・エランと戦うとつもりなのですね?」


 今までのエランの言動から見て、ジョットが最初からシレイアを渡すつもりがなかったと知ったら、エランは間違いなく実家の権力を使って何かしらの行動を起こすだろう。そうなったらシレイアをエランから守るつもりなのかとムムが聞くとジョットは迷いなく頷いて答える。


「当然だ。シレイアは俺の婚約者だからな。あんな奴に譲るつもりなんてない」

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