第424話

「っ!? ……! アイエエッ!? 祭夏・ジョット! 何で! アレス・ランザじゃなくて! えええっ!」


『『………』』


 ジョットがアレス・ランザではなくミレス・コルヴォカッチャトーレを使ってトライアルに参加していることに皇帝は面白いくらいに動揺し、そんな父親の姿を見てシレイアは口元を手で隠して笑い、ペルルは人工頭脳に記録していた。ちなみにペルルは記録をするのと同時に通信機能を使って今の皇帝の言動を魅火鎚に送っており、魅火鎚のブリッジにいる他のメンバーは皇帝の姿を見て笑っていたりする。


「お父様。実はジョット様がミレス・コルヴォカッチャトーレでトライアルに参加したのには理由があるのです」


 同様する父親の姿を見てひとしきり笑ったシレイアは、ジョットがアレス・ランザではなくてミレス・コルヴォカッチャトーレでトライアルに参加した理由を皇帝に説明することにした。


「……む? 理由じゃと?」


「はい。実は今回のトライアルには少し前から奇妙な噂がありまして。なんでも様々なトラブルで審査員が虹橋家のご当主様しかおらず、虹橋家の領内にある兵器メーカーの機体をろくに評価もせずに次期主力機に採用するのではないか、という噂です」


「何、そんな噂が? ……いや、しかし、確か虹橋家の当主は真面目な男だと聞いたことがあるが?」


 シレイアから今回のトライアルの噂を聞いた皇帝は、驚いた後に虹橋家の当主の評判を思い出し、娘の言葉を否定しようとする。


「確かに虹橋家のご当主様は真面目なお方です。……しかし問題の兵器メーカーの機体を操る機士はご当主様の一人息子で、ご当主様はお子様を大変愛しているようです。いくら真面目なご当主様でも、自分の領地の兵器メーカーの機体が次期主力機に採用された時の利益、更には目に入れても痛くないお子様が機体の機士である事実を前にしては公平であろうとする意思も揺らぐのではないのでは?」


「……むう。確かそれはあるかもしれないの」


 シレイアが親が子に甘いことを指摘すると皇帝は納得してしまう。


「ですからジョット様とマリー様はシャルロット様……正銀工房へと交渉してミレス・コルヴォカッチャトーレの機士となったのです。アレス・マキナの機士であり、大清光帝国の皇女とリューホウ王国の貴族の婚約者がトライアルに参加した以上、虹橋家のご当主様も露骨な贔屓判定はできませんからね」


 元々シャルロットは、シレイアをトライアルに参加させて虹橋家の贔屓無くすためにジョット達を傭兵学徒で雇ったので、ジョットがミレス・コルヴォカッチャトーレの機士になったのはシャルロットにとっては渡りに船と言えたのだった。


「……そういうことか。どうやらこのトライアルが終わり次第、虹橋家の当主には詳しい話を聞いてみる必要がありそうじゃな。最悪、トライアルをやり直すことも視野に入れねば……」


 シレイアの説明を聞いてジョットがミレス・コルヴォカッチャトーレの機士となった理由に納得した皇帝が何かを考えていると、そんな父親にシレイアが再び声をかける。


「それともう一つ、ジョット様がミレス・コルヴォカッチャトーレでトライアルに参加した理由があります。……実は虹橋家のご当主の一人息子、虹橋・エラン様はトライアルでの結果で私を賭けた勝負をジョット様にしかけてきまして……」


「その話、詳しく話せ」


 シレイアの言葉の途中で、皇帝は一切の感情を感じさせない真顔となり、娘からエランが持ちかけた賭けの話を詳しく聞くのであった。

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