第423話

 トライアルは参加している機体全てで軍用コロニー内の模擬戦場に用意された障害物のあるコースを競走し、次にトライアル競走した後に軍が用意したミレス・マキナと戦い、最後は参加している機体全ての総当たり戦という流れとなっている。


 このトライアルの流れは以前真道学園で行われた機械科技術対抗大会とほとんど同じなのだが、真道学園は元々優れたミレス・マキナの機士とそれに関わる技術者を育成する教育機関であるので、トライアルと機会科技術対抗大会の流れが似たようなものになるのは当然のことと言えた。


 しかし今回のトライアルは特別に視察に来た皇帝の支持により一部の変更点があった。


 それはつい最近製造された新しいアレス・マキナ、アレス・ランザとそれを操る機士、祭夏・ジョットの参加。


 戦場ではアレス・マキナと共に作戦行動を共にする可能性もあるため、それを想定した動きも見てみたいという皇帝の意見からアレス・ランザもトライアルの競走に参加して、更には最後の総当たり戦の後で勝ち残った機体とアレス・ランザが戦い合うという流れとなった。


 ……とまあ、皇帝は色々と理由をつけてアレス・ランザをトライアルに参加させたのだが、実際はジョットに難癖をつけるための粗探しが本当である。ちなみにこの皇帝の本音と行動はすでにシレイアが皇室に報告済みであり、後で皇帝は自分の家族である皇室の人間全てに呆れられながらも大説教され、三ヶ月ほど政務以外では自室から出ることとシレイアに接触することを禁じられた軟禁状態となるのだが、それはまた別の話。


「……ふむ。今回のミレス・マキナはどれも力作揃いのようだな。シレイアもそう思うだろう?」


 軍用コロニーにあるとある建物の貴賓室で、皇帝はモニターに映っているトライアルに参加した数体のミレス・マキナを見ながら隣の席に座っているシレイアに話しかける。


「エエ。ソウデスネ。オ父様」


 話しかけられたシレイアは、皇帝がこのトライアルを利用してジョットの粗探しをしようとしていることを知っているために心のこもっていない冷たい声で返事をするのだが、皇帝はそれに気づいていなかった。


「しかしまあ、いくら力作揃いのミレス・マキナと言えど、アレス・マキナと比べられればその活躍も霞んでしまうかもしれぬな。……これは我ながら大人気ないことをしてしまったかな?」


 もしこのトライアルでアレス・ランザが参加しているミレス・マキナに遅れを取れば、そこからジョットを責める気でいる皇帝は自分でも気づかぬうちに意地の悪い笑みを口元に浮かべ、心にもないことを言う。するとシレイアもまた、まるで悪戯をしかけた子供のような笑みを浮かべて皇帝に話しかける。


「お父様が大人気ないのは同感ですけど、残念ながらお父様の思う通りにはいかないと思いますよ?」


「何? それはどう言うことだ?」


 シレイアの言葉に皇帝は、彼女の方を見て今の言葉の意味を聞こうとするのだが、シレイアが何かを言うより先にモニターの中では大清光帝国の次期主力機を決めるトライアルが始まろうとしていた。



「こんな風に自分の愛機を見るというのはなんだか変な気分だな」


 ジョットが戦闘機のコクピットの中で機体と一体化しながら呟くと、戦闘機の通信機からマリーの声が聞こえてきた。


「言われてみれば確かにそうかもね。……でも今回はジョット君に頑張ってほしいような、そうでもないような、ちょっと複雑な気持ちなんだよね」


「何を言っているの!? 頑張ってもらわないと困るんだから!」


 マリーの言葉の次に戦闘機の通信機から聞こえてきたのはシャルロットの声だった。


「マリー、それぐらいにしておいてくれよ? シャルロットも、いきなり無茶なことを言ってすまなかったな」


「……いいえ。ジョットさんとマリーさんの申し出はある意味私達にとって渡りに船でしたからね。こちらからお礼を言いたいくらいです。……それではジョットさん、どうかよろしくお願いします」


 ジョットは通信機から聞こえてくるシャルロットの声に頷くと、自分と一体化している機体を発進させた。


「祭夏・ジョット。『ミレス・コルヴォカッチャトーレ』。行くぞ!」

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