第426話

「シャルロット、ちょっといいか……え?」


「だから何で黒翼・ヘビー・マシーナリーは必要ない機能まで大量に組み込むの!? そのせいで性能はピーキーになるし、価格に上限無く上がるからお客様が離れていくんだって! ……って、あら? す、すみませんジョットさん、大声を出してしまって。何かご用ですか?」


 エランとの会話の後にジョットがシャルロットとの回線を開くと、通信機からいきなりシャルロットの怒声が聞こえてきた。どうやら今までマリーと口論をしていたらしく、ジョットの声を聞いたシャルロットはマリーとの口論を止めて彼に話しかける。


「ああ、すまないけどシャルロットの方でコルヴォカッチャトーレの感度を最大値に設定してほしいんだ」


「えっ!? 感度を最大限に?」


「ジョット君、それって本気なの?」


 ジョットの言葉にシャルロットが驚き、彼女の隣で話を聞いていたマリーも疑問の声を上げる。


 機士はミレス・マキナが機体に受けた衝撃を感じることで、より機体と一体化して精密な操縦が可能となる。しかしこの機体の衝撃を感じる感度を上げすぎると、機体に衝撃を受けたという情報は「痛み」となって機士に襲いかかる危険性があった。


 ミレス・マキナの強みには痛みや死を忘れた積極的な戦い方も含まれているのだが、機体の感度を上げすぎて機士が痛みを感じるようになると、この強みが失われてしまう恐れがある。なので普通の機士は機体の感度を低めに設定していてそれはジョットも同じだったが、今日の彼は機体の感度を最大値にしてくれと頼んだのだ。


「俺は本気だ。大丈夫だから機体の感度を最大値にしてくれ」


「わ、分かりました」


 心配するシャルロットとマリーの声にジョットは頷くともう一度機体の感度を最大値にしてほしいと頼み、それにシャルロットが戸惑いながら実行すると、ジョットは身体の感覚が鋭くなったのを感じた。


 そしてそうしている内にトライアル開始の時間が迫ってきた。


「エランの機体、ミレス・アクセルカイザーだったか? 資料によるとスピードが自慢の機体みたいだけど……こっちもスピードには自信があるんだよ」


 トライアル最初の科目である模擬戦場のコースを周る競走が始まる数秒前。スタートラインの前に立ったジョットは、離れた場所でスタートラインの前に立っているエランを見てそう呟き、開始のブザーが鳴り響くと同時に機体を動かした。


「ムム! 最初から最高速度で行くぞ! サポートを頼む!」


「了解しました、旦那様」


 ジョットの言葉に同じ戦闘機のコクピットにいるムムが返事をすると、ミレス・コルヴォカッチャトーレを人型から戦闘機へと変形して飛翔した。


「変形した!?」


「あれが噂に聞く変形機能か?」


「だけどどうしてこんな所で?」


 戦闘機に変形したミレス・コルヴォカッチャトーレを見て、他のトライアルに参加している機士が驚きながら疑問の声を上げる。


 確かに戦闘機形態となったミレス・コルヴォカッチャトーレは最高速度だけなら人型の時よりも上だが、その分急な方向転換を苦手としている。今から周る模擬戦場のコースには多くの障害物が用意されており戦闘機では不利なはずで、エランは戦闘機となって自分の前を飛んでいくミレス・コルヴォカッチャトーレを見て小馬鹿にするような笑みを浮かべた。


「ふふん。愚かな選択をしたね、祭夏・ジョット? 確かにそれならボクのミレス・アクセルカイザーより速いかもしれないけど、コースの障害物を全て避けるのは不可……の……う……?」


 エランはすぐにコースの障害物で脱落するだろうジョットの姿を想像して独り言を言っていたが、ジョットの操るミレス・コルヴォカッチャトーレは速度を落とすことなくむしろ速度を上げてコースの障害物を全て回避しながら先に進み、その光景を見てエランは言葉を失うのであった。

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