第427話

 模擬戦場のコースには物陰から突然現れる障害物や模擬弾を放つ自動砲台、軍が用意したミレス・マキナといった数々の障害がトライアルに参加している機体の行く手を阻むのだが、ジョットの操るミレス・コルヴォカッチャトーレはそれらの障害を全て紙一重で避けていく。


 突然現れる障害物はまるで現れる場所が分かっているかのように安全な軌道を飛んで避けて、自動砲台の模擬弾と軍のミレス・マキナの攻撃を機体に命中する直前に回避するミレス・コルヴォカッチャトーレの動きは、高速戦闘が主体のミレス・マキナの機士から見ても驚愕すべき動きで、貴賓室からトライアルの様子を見ていた皇帝は驚きのあまり目を見開いていた。


「な、何だあの動きは? ジョットの奴、あんな動きができたのか?」


「ジョット様の防御の技量を応用したらあれぐらい当然です」


「……」


 皇帝の言葉にシレイアがそう返すと彼女の後ろにいたペルルが頷く。


 ジョットの尋常ではない防御能力は彼がまだ貴族になる前、幼少の頃より毎日デブリ帯でジャンク漁りをすることで磨いた観察力と機体が衝撃を受けてすぐに行動に移せる反射速度からきている。


 ジャンク漁りをしながら横目で見た僅かな光景から何かが起こる前兆を感じ取り、機体が衝撃を受ければそれがどんな小さなものでも機体に何が起こったのか即座に正確に把握して反応する。ジョットはそれをスクラップ品同然で、視覚カメラの精度も機体の感度も最低であったミレス・マキナを使っていた頃から行っており、そんな彼が正銀工房という大清光帝国で大手の兵器メーカーが開発した最高級の性能を持つミレス・コルヴォカッチャトーレを使った結果、彼の防御能力の精度は大きく向上したのである。


 更に言えばジョットはトライアルの開始直前に機体の感度を最大値にしており、それによって大気の流れすらも感じられるようになった彼は、相手の攻撃をそれによって生じる風から察知して避けるという、まるで予知能力でも使っているかのような回避運動を実現してみせた。


 周囲の動きを先読みしながら高速移動するミレス・コルヴォカッチャトーレは、トライアルに参加している他の機体と大きく差をつけていき、このままジョットの独走状態かと思われたその時、二つの巨大な影がミレス・コルヴォカッチャトーレに迫ってきた。


 ミレス・コルヴォカッチャトーレの背後を猛スピードで追ってくる二つの影。その内の一つはエランが操るミレス・アクセルカイザーで、もう一つの影はジョットの本来の機体であるアレス・ランザであった。


「……やっぱり追い付いてきたか、カーリー」


 アレス・ランザとミレス・アクセルカイザーの存在に気づいたジョットが自分の愛機に向かって話しかけると、現在アレス・ランザを操っているカーリーが楽しそうな声で返事をする。


「まぁね。アレス・マキナを使ってミレス・マキナに負けるわけにはいかないでしょ? ……でもその機体も結構いいんじゃない? ジョット君の操縦の腕もあるだろうけど、アレス・マキナでも中々追いつけないスピードで移動できるのは凄いと思うよ」


「そうだな。俺もそう思う。この機体は本当にいい機体だ。……それに比べて」


 ジョットはカーリーの言葉に同意すると、アレス・ランザの後ろにいるエランのミレス・アクセルカイザーに視線を向けて、その飛んでいる姿を見て呟いた。


「……なるほどな。マリーがあれをブサイクな機体と言った理由がようやく分かったよ」

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