第428話

(クソッ! クソッ! 一体どうしてだ!?)


 ミレス・アクセルカイザーを高速で飛ばしながらエランは心の中で悪態をついた。


 エランの前にはジョットが操るミレス・コルヴォカッチャトーレとカーリーが操るアレス・ランザの姿があり、エランは前方の二体を見ながら悔しそうに歯ぎしりをする。


(ミレス・アクセルカイザーはボクの完璧な設計から作られた最速の機体のハズだ! それにパパからコッソリ借りたデータから障害物や敵が少ないルートを調べてタイムロスも控えたハズだ! それなのにアレス・マキナはともかく何で祭夏・ジョットのミレス・マキナに追いつけない!?)


 エランの予想では自分が他のトライアルに参加している機体を大きく引き離して競争で一位となるはずであった。だが実際は自分の前にいるジョットとカーリーに追いつけず徐々に距離を空けられており、その事実がエランを焦らせる。


 いくら今回のトライアルの唯一の審査員が自分の父親で、ミレス・アクセルカイザーが次期主力機に採用されることが決まっているとしても、最初の種目で他の機体に大きく負けていたら周りから怪しまれるかもしれない。そう考えたエランは最早なりふり構わなくなり、ミレス・アクセルカイザーの両肩に内蔵されているビーム兵器をジョットとカーリーに向けて放った。


「邪魔だ! ボクの道を開けろ!」


「……! 危ないなぁ、ちょっとマナーが悪いんじゃないの?」


 トライアルに参加した機体同士が妨害するのはルール違反ではないが、それでもエランが放ったビームを避けたカーリーは不愉快そうにエランの方を見る。そしてカーリーが操るアレス・ランザはエランのビームを避けたことで体勢を崩して速度を落としたのだが……。


「……あら?」


「何っ!?」


 ジョットのミレス・コルヴォカッチャトーレは速度を落とすどころか更に上げて、エランのビームを最小限の動きで避けながら先に進んで行き、まるで背中に目でもあるかのように背後からの攻撃を完璧に避けるジョットの動きにカーリーとエランが驚きの声を上げる。


「ジョット君ってば相変わらず避けたり防いだりするのが上手だね……って? ん?」


「逃すか!」


 カーリーがジョットの動きに感心したように言ったその時、エランのミレス・アクセルカイザーが背中の大型スラスターから今まで以上の強い光を放って加速し、アレス・ランザを抜き去っていく。


「へぇ? エラン君の機体も速いじゃない? ……でも大丈夫かな?」


 エランに先を越されたカーリーは楽しそうな笑みを浮かべてジョットとエランの後を追うのだが、すぐに何かを心配するような顔となって呟いた。


(ここだ! パパのデータによるとここから先、しばらくは障害物も敵もいないはず! ここで一気に祭夏・ジョットも抜き去る!)


 ミレス・アクセルカイザー加速の皇帝はその名前に恥じない速度を出すと、少しずつミレス・コルヴォカッチャトーレに近づいていく。


(よし! 最初は少し焦らされたけど、結局最後に勝つのはこのボク……………え?)


 ミレス・コルヴォカッチャトーレの後ろ姿を見たエランは自分の勝利を確信して笑みを浮かべるが、その次の瞬間にミレス・アクセルカイザーは空中で爆発した。それを観戦用のモニターから見ていたマリーは呆れたようにため息を吐いた。


「はぁ……。やっぱりそうなっちゃうよね。あんな機体の強度も考えずにスラスターの出力だけを強化したブサイクな機体、よくあそこまで保ったわね?」






〜後書き〜

 エランが使っていたミレス・アクセルカイザーの元ネタは、ファーストな機動戦士の外伝に登場した公国の量産機を決めるトライアルで空中分解してしまった機体です。

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