第429話
「やっぱり爆発したか」
「旦那様はあの機体のことに気づいていたのですか?」
ミレス・アクセルカイザーが空中で爆発したのを確認して呟いたジョットにムムが聞くと、彼はそれに頷いて答える。
「ああ。俺は昔、ジャンク品を繋ぎ合わせたミレス・マキナを使っていたせいか、機体の振動を見てどのパーツがヤバいのか大体分かるんだ。だから飛んでいる姿を見て、エランのスラスターが暴走寸前の状態だったのがすぐに分かったよ。それでさっきのスピードアップがトドメになったようだな」
「……まったく。無茶な強化をした挙句に暴走して爆発するだなんて美しくありませんね。ギリギリまで強化しながらも完璧に制御した機体を乗り手の意思で爆発させてこそ自爆の美学があると言うのに」
ジョットの言葉を聞いてよく分からない美学を口にするムム。
どうやら自爆装置を愛する者には自爆の美学というものがあるようで、マリーがミレス・アクセルカイザーを見てブサイクな機体だと言い切ったのは、アクセルカイザーのスラスターがスピードは出るがいつ暴走して爆発するか分からない欠陥品だと気づいて、ムムと同じく自爆の美学が感じられなかったせいではないかとジョットは思った。
「とにかくこれでミレス・アクセルカイザーが次期主力機になることはないでしょうね」
「だろうな」
ムムの言葉に同意するジョット。
いくらエランの父親である虹橋家の当主が今回のトライアルで唯一の審査員だとしても、トライアル中に空中分解した機体を大清光帝国の次期主力機に採用することは難しいだろう。しかも今回のトライアルには皇帝と皇族のシレイアが直接観戦していて今のミレス・アクセルカイザーの爆発も目撃されており、これでもし虹橋家の当主が審査員の権力を使ってミレス・アクセルカイザーを採用したら虹橋家は間違いなく終わるだろう。
「あとはこのトライアルで良い成績を出すだけだ。まずはこの競争で一位を取らないとな」
ジョットはそう言うと背後から再び猛スピードで迫って来ているカーリーが操るアレス・ランザに視線を向ける。
ミレス・マキナに使われている通常のジェネレーターより遥かに高出力なアレス・マキナにのみ使われているジェネレーター。そのジェネレーターが生み出すエネルギーを全てスラスターに使って尋常ではない加速力を発揮したアレス・ランザは、大きく離れていたはずのミレス・コルヴォカッチャトーレとの距離を少しずつ狭めていっていた。
「ふふん、ジョット君♩ そう簡単に一位は取らせないからね?」
「……クッ! もうここまで……自分の愛機が優秀なのは嬉しいんだが、今回は少し複雑だな。だけどゴール地点はもうすぐのはずだ。このまま一気に……っ!?」
背後から迫って来るアレス・ランザを見て、ジョットがミレス・コルヴォカッチャトーレが速度を更に上げようとしたその時、軍用コロニー全体に緊急事態を報せるアラームが鳴り響いた。
「どうした、ムム。何が起きた? ……まさか」
「そのまさかです、旦那様。このコロニーの周辺にゲムマが出現したそうです」
ジョットの質問に頷いたムムは、今さっきコロニーから自分の人工頭脳に送られてきた情報を告げた。そして……。
コロニー全体にアラームが鳴り響いた時、コロニー内の人気のない場所で一人の人影が首を傾げていた。
「急に騒がしくなったけどこの音は何? それにさっきから気になっていたけど、この気配はもしかして……」
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