第506話

「……」


 1672番の視線の先でジョットとアレス・グラディウスが天貫光アマヌキノヒカリを構えていると、通信機からマリーの声が聞こえてきた。


《何をしているのジョット君? さあ、天貫光の『あの』機能を使って見事トリ最後を決めちゃって!》


「いや……? トリを決めるのは別にいいんだけど……本当に『アレ』を使うのか?」


 何やらテンションが高いマリーの声とは反対に、ジョットはどこか乗り気ではない様子であった。


「確か……俺とアレス・グラディウスのトリックスターを攻撃に利用した機能だったよな? でもそれってやっぱり、お前達黒翼・ヘビー・マシーナリーの作る兵器同様に……」


《そう! 威力は超一流だけど使い方を間違えたら自滅一直線の自爆装置と紙一重のロマン兵器!》


「だから! 何でお前はそう自爆装置とかを嬉しそうに使わせようとするんだよ!?」


 自分の言葉に嬉しそうに答えるマリーにジョットは思わず大声で叫び返す。


《いいから早く! せっかく三人が邪魔な触手を全部破壊してくれたのに、また生えちゃうよ?》


 マリーに言われてジョットが1672番のゲムマを見ると、ゲムマの身体からは新たな触手が生えようとしていた。


「ああ、もう! 使えばいいんだろ!? 『禁断のフォービドゥン……?」


「ちょっと待ってくれないか?」


 考えている時間が無いと判断したジョットが、半ば自棄に近い気持ちになって天貫光のトリックスターを攻撃に利用した機能を使おうとしたその時、1672番がジョットに話しかけてきた。


「すまないがその機体を操る人類よ。一つ頼みたいことがあるのだがいいだろうか?」


「……? 何だ?」


《何よ!? せっかくアレス・グラディウスの必殺技のお披露目だって言うのに水を刺しちゃってさ!》


 戦闘の最中に頼み事をしてきた1672番にジョットが首を傾げ、マリーが苛立った声を上げる。しかし1672番はそんな二人の様子を気にすることなく自分の頼みを口にする。


「キミとキミの機体は、例の精神波を変換したエネルギーを使って世界の法則を一時的に変更する現象……確かトリックスターと言ったか? それを使えたな? ちょうどいい機会だから、それをここで使ってみてくれないか?」


『『……………!?』』


 1672番の頼みを聞いてジョットとマリーだけでなく、マーシャとセレディスとシレイアも意外そうに1672番を見る。だが9543番だけは納得したように苦笑する。


「あー……。やっぱりこうなちゃったか。1672番の観察欲がここで出ちゃうか……」


 9543番の呟きを聞いて1672番が頷く。


「そうだ。たった一個体が短時間、ごく限られた範囲とは言え、世界の法則を変更するトリックスターは宇宙全体から見ても非常に珍しい現象だ。とても興味深い。もちろん今キミが使おうとしていたトリックスターを利用した攻撃も興味深いが、その前にキミのトリックスターのありのままの効果を体験して観察したい」


『『……………』』


 ここに来て、いや、最初から最後まで自身の好奇心を優先させる1672番の言葉にジョット達は言葉を失い、苛立っていたマリーでさえも苛立ちを忘れて呆れてしまう。


「頼む、人類……いや、祭夏・ジョット。トリックスターを使ってくれないか?」


「………マーシャ。セレディス。シレイア。念の為にこの場から少し離れてくれないか?」


「分かったわ」


「了解した」


「承知しました」


 1672番の頼みを聞いて少し考えてからジョットがマーシャ達にそう言うと、彼女達三人は自分達の機体を動かして距離を取る。それを確認してからジョットは1672番の方へ視線を向ける。


「……分かった。そこまで言うなら見せてやるよ。ただし、ジェネレーターを調律した今のトリックスターは以前よりずっと強力だ。どうなっても知らないからな。……トリックスター『恐乱劇場デイモス・フォボス発動!」


 そこまで言うとジョットは1672番の要望通り自身のトリックスターを発現させて、次の瞬間……。



 世界は文字通り「デタラメ」と化した。

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