第507話

「………結局、最初から最後までマイペースな奴らだったな」


 1672番と6567番との戦闘から数時間後。ジョットは魅火鎚の内部にある機士の待機室で呟いた。


 1672番の頼みを聞いてジョットがトリックスター「恐乱劇場デイモス・フォボス」を発現させると、1672番は全てがデタラメになった世界を驚きながら観察を始め、観察を終えると満足したのか自分が行動不能にした6567番を連れて故郷の銀河へと帰って行ったのだ。自分達から戦いを仕掛けて来て、満足したら帰る1672番の姿を見ればジョットでなくてもそう言いたくなるだろうし、同じ待機室にいる者達もジョットと同じ考えなのか頷いている。


「あー……。ワタシ達ってワタシを含めて自分のペースで動くのがほとんどだからね。もしそれで何か問題が起きても、本体惑星や銀河に大きな悪影響を出すことはほとんどないから、放っておく場合も多いしね」


 ジョットの呟きを聞いて9543番が苦笑しながら答える。


 9543番の正体は自我に目覚めた惑星で何万年どころか何億年も一個体だけで生きている者ばかりなので、そのせいか人類のジョット達とは考え方が違うようだった。


「それであの戦闘中に1672番が言っていたけど、俺達人類って合格なんだよな?」


 今回1672番と6567番がジョット達人類に戦いを挑んだのは、ゲムマが本気を出したり自分の正体を報せても人類が絶望しないかを見極めるテストのようなものだった。そして1672番は新しい機体を用意して自分達に戦いを挑んできたジョット達を見て、人類はゲムマの本気や真実を知っても絶望しないと判断して、数時間前の戦闘中に「合格」と言ったのだ。


「うん。そうだよ。今頃は1672番が他の仲間達に、自分達がもっと本気を出して遊んで戦っても人類は大丈夫だって報告しているはずだよ」


「それって私達人類からしたらちょっと困ることになると思うんだけど……?」


 9543番の話を聞いてマーシャが苦い顔をして呟く。彼女達が本気を出すということは、これからはもっと強力なゲムマが出現すると言うことで、いくら9543番達の目的が単なる遊びで人類を本気で害するつもりはなくても、人類からすれば恐怖でたまったものではないだろう。


「マーシャの言う通りだな。……というか、もし人類がゲムマの真の実力や真実に耐えられない『不合格』だったら、どうなっていたんだ?」


「そうだね……。188番の言うにはせっかくの知的生命体を絶滅させたくないから、合格できるくらい精神が成長するまで遊び戦いを中止して、一万年くらい接触を控えるんじゃないかな?」


「……………もしかして、この戦いって不合格になった方が私達人類にとっては良かったのでしょうか?」


 セレディスに聞かれて9543番が答えると、彼女達のテストに不合格となった方がゲムマの出現が無くなって人類の世界は少し平和になったのではとシレイアは思った。


「まぁ、今更過ぎたことを言っても仕方がないんじゃないですか? ゲムマがいなくなったら、私達もせっかくの新兵器を試せる相手が減るわけですし」


「そうそう」


 シレイアの呟きにマリーが答えると、9543番が嬉しそうにマリーの言葉に頷く。


「それよりも今はこっちの問題を何とかしないと……」


 そう言うとマリーが自分の携帯端末を操作すると待機室のモニターがある映像を映し出す。モニターにはギラーレ同盟の本国であるコロニー郡で、ギラーレ同盟の大勢の国民達が大騒ぎをしている光景が映されていた。


 ギラーレ同盟の国民達はゲムマに襲われた恐怖や不満から暴動を起こした……というわけでなく、数時間前にジョットが発現させたトリックスターによって世界がデタラメになった光景を目にしたせいでパニックを起こしていたのだった。


「これは……どうしよう?」


 今のところパニック状態となったギラーレ同盟の国民達から大きな被害は出ていないがそれもいつまで続くか分からず、この状況を作ってしまったジョットは無表情のまま冷や汗を一筋流した。

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