二十三章

第508話

「ギラーレ同盟の国民達……。最初はどうなるかと思ったけど、何とかなったな」


 1672番との戦いから数日後。ジョットは魅火鎚内部の機士の待機室から、ギラーレ同盟の本国であるコロニー郡の様子を見て呟いた。


 1672番との戦いでジョットは、1672番の要望を聞いてトリックスター「恐乱劇場デイモス・フォボス」を発現させて、その時の光景を見てギラーレ同盟の国民全員がパニック状態となったのだ。これに対してジョット達は大清光帝国に救援を求めてギラーレ同盟の国民達の監視や介護をする人員を寄越してもらったのだが、特に大きな騒ぎも起こらず今ではギラーレ同盟の国民達も落ち着きを取り戻しており、それを確認したジョットは相変わらずの無表情だが内心では安堵の息を吐いていたのだった。


「本当に良かった。1672番や6567番を撃退できてもギラーレ同盟の国民に被害を出したら、何を言われるか分からないからな」


 ジョットの呟きに彼の隣に立つベックマンが返事をする。


 この数日間ベックマンは、ギラーレ同盟の国民の監視や介護をする大清光帝国の軍人を手配したり状況把握などに奔走しており、ギラーレ同盟の国民達が落ち着きを取り戻した今は肩の荷が降りたという顔で笑っていた。……ただ、彼のマッシュルームヘアーには白髪が何本か増えているが。


「それでギラーレ同盟って大清光帝国に宣戦布告をしていたけどまだ戦うのか?」


 新しい機体の開発や1672番や6567番との戦いで忘れかけていたが、大清光帝国とギラーレ同盟は戦争状態であったことを思い出してジョットが聞くと、ベックマンはそれに首を横に振って答える。


「いいや。ギラーレ同盟はすで宣戦布告を撤回して、以前のような同盟関係を結べないかって大清光帝国を始めとする各国に申し込んでいるらしい。6572番に本国の防衛部隊を壊滅させられて、自分達だけでは本気を出したゲムマには対抗できないって悟ったってのもあるけど……それでも一番の理由はお前だろうな」


「俺?」


 ギラーレ同盟はすでに大清光帝国との戦いを諦め、その一番の理由が自分だと言われたジョットが聞き返すとベックマンが頷く。


「そうだ。あのトリックスターの光景がギラーレ同盟の国民達によっぽどこたえたみたいでな。『あんな無茶苦茶な機体を持つ国と戦争なんてとんでもない』っていう意見がギラーレ同盟の国民達だけでなく上層部にも出たようだ。……まぁ、本国の国民の全てをパニック状態にされたらそう思いたくなっても仕方がないんじゃないか? 実際一歩間違えたらギラーレ同盟が滅んでいたかもしれないんだから」


「俺はそんなつもりはなかったんだが……だけど結果として戦争が終わったから良かったのか?」


 自分とアレス・グラディウスはギラーレ同盟の国民達に大きな被害を出しかけたのだが、それが結果として戦争を終わらせるきっかけとなったことにジョットは複雑な気持ちとなる。


「とにかく、これで戦争が終わるってことは俺達もようやく真道学園の学生に戻れるってことだな」


「………いや。多分まだ当分、学生には戻れないと思うぞ?」


「? どういうことだ」


 ジョットが自分の呟きにそう返してきたベックマンに聞くと、ベックマンは気まずそうに目を逸らしてから口を開いた。


「少し前に大清光帝国の上層部からの報告書が来たんだけど、その中にジョット、お前に関する報告もあったんだ。……それによるとジョット。お前、近いうちに結婚することになるらしいぞ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る