第509話
「…………………………え?」
ジョットはベックマンの言葉を理解するのに数秒の時間を必要とした。
「結婚って……俺が?」
「そう言っただろ?」
「それじゃあ、相手はもしかしてマーシャとセレディスとシレイア?」
突然の展開に内心で動揺しながらジョットが聞くと、ベックマンは呆れたような顔をしながら頷く。
「他に誰がいるんだよ? ……それとも彼女達以外にもまだ婚約者がいたりするのか?」
「いや、いない。……いないと思う。だけど、ほら? 俺って気がついたら周りが勝手に動いて婚約者が増えたりしていたから、また周りがいきなり結婚相手を用意してきたのかと思って……」
「……ああ、なるほど。まあ、貴族社会ではそこまで珍しいことじゃないか」
これまでに何度も周囲の都合によって結婚や婚約をしてきたジョットが言うと、ベックマンは納得した表情となって頷く。貴族の世界では結婚というのは家同士の繋がりを作るという意味が大きく、その為ならば本人が知らないうちに家族が縁談を進めて、全てが決まってから初めて当人が結婚や婚約のことを聞くというのも、それほど珍しくなかったりする。
「でも何でいきなり結婚なんだ?」
「何でって、お前は自分がしたことを理解していないのか?」
「俺がしたこと?」
疑問を口にしたジョットはベックマンに逆に聞き返されるが何の事だか分からずにいると、ベックマンはいよいよ呆れ果てたような顔となる。
「お前……さっきまでの会話をもう忘れたのかのよ? ジョット、お前は新型のアレス・マキナを使って新種のゲムマを撃退して、トリックスターを使ってギラーレ同盟の国民達の心をこれ以上なく折って大清光帝国との戦いを終わらせるきっかけを作っただろ? これってかなり凄いことだぞ?」
「……? ……あっ!」
ベックマンの言葉を聞いたジョットは少しの間を置いて彼の言葉の意味に気づく。
大清光帝国の軍事力の象徴であるアレス・マキナ。その新型機の受領。
新種のゲムマの撃退。
アレス・マキナのトリックスターを発現してギラーレ同盟の戦意を喪失させて、戦争終結の要因を作る。
ベックマンの言う通り、これらのジョットの功績はどれか一つだけでも大きな功績だと言えるだろう。その事をようやく理解したジョットにベックマンは説明をする。
「これだけ大きな功績を上げたお前がまだマーシャとセレディスさん、シレイア様と結婚をしていないとなったら、大清光帝国は周辺諸国に何を言われるのか分かったものじゃない。……最悪、大清光帝国は褒美を出し渋る国だと思われて、その国がジョットのスカウトに来てもおかしくない。だから大清光帝国は近いうちにジョットと三人を結婚させることに決めたんだろうな」
加えて言えば今回の件でジョットとアレス・グラディウスは、単独で一国を相手にしても勝てるだけの実力が証明されたわけで、マーシャとセレディスの祖国であるリューホウ王国としては、一刻も早くジョットとの縁を結んでおきたいのだろう。
しかしジョットにしてみれば新型機のアレス・グラディウスの件はともかく、ゲムマの件は相手の目的が単なる遊びだと知っていたし、ギラーレ同盟の件に至っては1672番の要望を聞いてトリックスターを発現させたら向こうが勝手にパニックになっていたので、全く実感がなかったのだった。
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