第510話

「まさか俺がマーシャとセレディス、シレイアと結婚なんてな……。いや、婚約者だからいつかは結婚するのは分かっていたけどさ……」


 ベックマンとの会話を終えたジョットは魅火鎚の船内を歩きながら呟く。自分が彼女達と婚約しているのは忘れてはいなかったが、それでも結婚はまだ先の話だと思っていたジョットは内心で複雑な気分だった。


「それにしても結婚となればやっぱり結婚式だけど……マリーとは結婚式を挙げていなかったな?」


 ジョットはベックマンとの会話で、大清帝国が自分とマーシャ達三人の盛大な結婚式を計画しているらしいという話を聞いたのを思い出すと、そこでマリーの顔が思い浮かんだ。


 ジョットとマリーはアレス・ランザを受け取る時に、彼女がアレス・ランザ受け取りの書類に紛れ込ませた婚姻届に彼がろくに確認もせずにサインをしたことによってなし崩し的に夫婦となった。だから当然、ジョットとマリーは結婚式を挙げていないのだが、彼はそれが気になっていた。


「俺の家族に挨拶に行った時も、そんなに気にしていないみたいだったけどな……ん?」


「ちょっとそれってどういうことよ!?」


 魅火鎚に格納されている火颶槌に辿り着いたジョットが火颶槌の船内に入りブリッジに向かっていると、ブリッジからマリーの怒鳴り声が聞こえてきた。何事かと思ってジョットが火颶槌のブリッジに入るとそこには、マリーとムム、マーシャとセレディス、シレイアとペルルといったいつもジョットの側にいる女性達だけでなくシャルロットの姿もあった。


「シャルロット? 一体どうしてここに?」


「あら、ジョットさん。やっと帰ってくれましたね。待っていました。実は私とジョットさんの大切な話がありまして……」


「大切な話なんて無い! 早く帰って!」


『『………』』


 ジョットに聞かれてシャルロットが何かを言おうとするがそれをマリーが遮って大声を出す。そしてマーシャとセレディスとシレイアの三人も、マリー程敵視はしていないがどこか面白くなさそうな顔でシャルロットを見ていた。


「……ええっと? それでシャルロットと俺の大切な話って?」


 マリーはシャルロットに一刻も早く火颶槌から帰ってほしいようだがシャルロットは帰る様子はなく、このままだと話が進まないと判断したジョットがシャルロットに聞くと彼女は一つ頷いてから話し始める。


「はい。この度はジョットさんとシレイア様、マーシャさん、セレディスさんの結婚、おめでとうございます」


「ああ、もうその事を知っているんだ?」


 自分達の結婚の話をすでに聞いているシャルロットにジョットが内心で感心していると、その直後に彼女は彼が予想もしなかった爆弾発言を口にした。


「そしてそれと同時に祭夏・ジョットさんと私、正銀・マーシーブレイド・シャルロットの婚約が正式に認められました」


「…………………………はい?」


 シャルロットの婚約者発言にジョットは一瞬、彼女が何を言っているのか理解できず周囲にいる女性達を見回すのだが、彼女達はそれぞれ複雑そうな気持ちを露わにしながら彼と視線が合うと頷くのであった。


「……本当に俺とシャルロットは婚約したのか? でも一体どうしていきなりそうなるんだよ?」


 ただでさえマーシャとセレディス、シレイアとの結婚の話が急に出てきて驚いていたのに、そこに加えてシャルロットとの婚約話まで出てきたことでジョットが軽く混乱していると、シャルロットが自分と彼の婚約が決まった理由を説明しようとする。


「私とジョットさんの婚約が決まった理由……。それは簡単に言えば今回開発したジョットさんの新型機であるアレス・グラディウス、そして他の三人の新型機の代金代わりと言ったところでしょうか?」

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