第522話

 ジョット達の屋敷に警報が鳴り響く少し前。屋敷の前には数十人の男達が集まっていた。


「ここがあのハーレム野郎の屋敷か……」


「いや、屋敷と言うより悪の組織の要塞なんじゃねぇの?」


 屋敷の前である意味もっともなことを言い合っている男達は全員同じ服を、真道学園の制服を着ており、それは彼らが真道学園の学生であることを意味していた。


「それにしてもジョットの奴め……! 我々に対する嫌がらせか?」


 彼ら、数十人の学生達は今回のジョットの結婚式と婚約発表式の招待客なのだが、その中の一人である若蛇原・ジャッキーが憎々しげに自分が持つ招待状を見ながら言う。ジャッキーを初めとする彼らは、真道学園で女性達に囲まれているジョットに嫉妬の視線を向けていた者達で、他の学生達も嫉妬の表情を浮かべているジャッキーと同じ気持ちであった。


 ちなみにジャッキー達に招待状を送ったのは、ジョットではなく大清光帝国の上層部である。


 この結婚式と婚約発表式を決めた大清光帝国の上層部は、信頼できる貴族の家とジョットに関わりがありそうな貴族達に招待状を送ることにした。そして以前とある貴族が起こした騒動をジョットと一緒に解決したジャッキー達にも招待状が送られることとなったのだ。


「あとこの屋敷なのか要塞なのか分からない建物も気に食わん。ジョットの奴め、自分はマリーと仲良くしているということをアピールしやがって……!」


 ジャッキーが目の前にあるジョット達の屋敷を親の仇を見るような目で見ながら言うと、学生の一人が首を傾げる。


「? 何故、この屋敷がジョットとマリーが仲良くしているということに繋がるのですか?」


「よく考えろ。この悪の組織の要塞のような悪趣味なデザインは、間違いなくジョットではなくマリー嬢の趣味だろう。大清光帝国の貴族にとって屋敷は自分の力を周りに見せる重要な要素だ。その屋敷のデザインに嫁の意見を取り入れると言うことは、ジョットとマリーの仲が良好だと言う何よりの証拠となるだろう」


 学生の一人に答えるジャッキーの言葉はある意味正しかった。彼の言う通り、この屋敷をデザインしたのはマリーと黒翼・ヘビー・マシーナリーの技術者達で、貴族の中には屋敷のデザインに嫁の意見を取り入れる者も少なからずいるからだ。


 ただ一つ違う点があるとすれば、屋敷をデザインはマリーの独断で決まられたことなのだが、そんな事は知らないジャッキーはある可能性に思い至った。


「まさかマリー嬢は……!」


「どうしました、ジャッキーさん?」


 ある可能性に思い至った瞬間、嫉妬の表情から戦慄の表情となったジャッキー。そんな彼にまた学生の一人が問いかけると、ジャッキーは今度は憤怒の表情となり口を開いた。


「噂に聞いたことがある……。マリー嬢は性能が無茶苦茶だったり、価格がバカ高い兵器の開発をする時、ジョットの奴に許可を求めるのだが、その時に色々と甘えたり性的なサービスをするらしい……!」


『『せ、性的なサービス……!』』


 ジャッキーの言葉を聞いた瞬間、この場にいる学生達全員に稲妻が走り、ジャッキーは静かに一つ頷くと言葉を続ける。


「そうだ。よくよく考えてみれば、こんなふざけた外見の屋敷を見たら他の人間のほとんどはドン引きするに決まっている。それなのにこんなデザインをすると言うことは、マリー嬢がジョットに性的なサービスをしてねだった結果だろう。ジョットの奴は女にはかなり甘いから、それほど難しくはなかったはずだ」


 今回のジャッキーの言葉もある意味正しかった。実際にマリーはジョットと肌を重ねた時に、無茶な兵器の開発の許可を要求したことが何度もあったため、屋敷のデザインもマリーが肌を重ねて許可を求めたのだとジャッキーが予想するのも仕方がないと言える。


「お、おのれ、祭夏・ジョットめ……! なんて羨まし……いいや、けしからんことを!」


「貴族の象徴である屋敷を何だと思っているんだ!?」


「しかもそれを俺達に見せつけるとは我々に対する挑発としか思えん!」


 ジャッキーの説明を聞いて学生達から嫉妬と憤怒の気炎は放たれ、彼らの言葉にジャッキーは覚悟を決めた表情で再び頷いた。


「よくぞ言った同志諸君! ならば戦争だ! ジョットの奴に招待されたのならば、我々は奴には心からの贈り物をくれてやろう! この世全ての苦痛と来世への直通特急券という名の贈り物をな! 行くぞ!」


『『おおーーーーー!』』


 嫉妬と怒りに思考を支配されたジャッキー達数十人の学生は、ジョットを誅殺せんと屋敷の中へと突撃をした。


 ……その後、自分達に起こる地獄など予想もしないまま。

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