第421話
「……ということがあったんだ」
「お、ま、え、は〜! 何でちょっと、目を、話したら、トラブルに、巻き込まれるん、だよ!」
「そ、そうです! ベックマン様の、心労も、少しは、考えて、ください……!」
「……………!」
コロニー内にある模擬戦場の下見を終えて魅火鎚に帰ってきたジョットが、模擬戦場で会ったエランのことを話すと、サンダースとイヴが二リットル以上ある薬湯を一気飲みしようとするベックマンを必死で止めながら大声で叫ぶ。
何かトラブルが起こらないかと心配していたら早速トラブルが発生して、胃痛の限界を感じたベックマンが大量の薬湯を一気飲みしたくなる気持ちも分からなくもないのだが、これにはジョットも異議を言いたかった。
「いや、まさかあんな奴が現れるなんて予想できないって……。それでシレイア? あのエランって奴、会ったことあるのか?」
ジョットはいきなりシレイアを賭けての勝負をしかけてきたので、シレイアにエランのことを聞いてみたが、彼女は首を横に振って答える。
「いいえ。会ったことはありません。虹橋という伯爵家は以前聞いたことはありますけど……あんなに個性的な方と会ったことがあれば忘れるはずがありません」
「だよな」
「旦那様。今、虹橋・エランに関する情報が届きました」
シレイアの言葉にジョットが思わず同感だとばかりに頷いているとムムが話しかけてきた。
「エランに関する情報? そんなのいつの間に調べていたんだ?」
「それならジョット様がエラン様と会話している時に皇室の情報部に調査をお願いしました」
ジョットの疑問にシレイアが答える。
あの模擬戦場でのエランとの会話はアレス・ランザの通信装置を通じてシレイア達も聞いており、その時点でシレイアはエランについて調べさせていたらしい。そしてその調査結果が今、ムムの人工頭脳に届いたのであった。
「そうなのか。それであのエランは一体何者なんだ?」
「はい。あの男、虹橋・エランは本人が言っていたように虹橋家の人間で、真道学園の卒業生のようです」
「あの人が?」
「はい。……しかし機士科の成績は最低ランクで、二回留年した上に教官達のお情けでようやく真道学園を卒業できたそうです」
「ちょっと待ってくれ? それで俺にシレイアを賭けて勝負しろとか言ってきたのか?」
エランが自分達が所属している真道学園の卒業生だと知ってマーシャが意外そうな顔で呟くと、ムムは彼女の呟きに一つ頷いてからエランの残念な成績を話した。それを聞いてこの場にいる全員が信じられないといった気持ちとなったが、一番信じられないと思ったのは決闘を申し込まれたジョットであった。
「いや、そもそも何でエランはトライアルに参加できたんだ? トライアルに参加する機体……アクセルカイザーだったか? それも自分が設計したとか言っていたし、もしかして技術者としては腕が一流だとか?」
ジョットが最もな疑問を口にする。
大清光帝国の正規軍が使う次期主力機を決めるトライアルに参加するのは、全ての兵器メーカーにとって最高の名誉であるため機体を操る機士も最高の人材を用意するはずだ。とても学生時代の成績が最低ランクで卒業するまで二回も留年したエランが選ばれるとは思えず、もしかしたら機士としての腕はともかく機体の構造を熟知したマリーのような一流の技術者なのかと聞くと、ムムはジョットの言葉に首を横に振った。
「いいえ。虹橋・エランに技術者としての知識や技術は全くありません。虹橋・エランはあまりの能力の低さから何処にも士官先がなく、実家の虹橋家が経営を支援している兵器メーカー、シルバーブレッド・ファクトリーに実家のコネで入社したそうで、今回のトライアルに参加できたのもスポンサーの息子というのが関係しているそうです。ちなみミレス・アクセルカイザーの設計をしたとも言っていましたが、シルバーブレッド・ファクトリーが考えた設計案の一部を無理矢理変更させただけだとか」
「……………つまり、エランは実力ではなく実家の権力だけでトライアルに参加した、自意識過剰な貴族の馬鹿息子ってことか?」
「旦那様の言う通りです」
『『……………………』』
ムムの説明を聞いたジョットは、模擬戦場でのエランとの言動を思い返して彼がどういう人物かを予想して言うと、ムムはそれに同意して頷き話を聞いていた他の者達は一人を除いて呆れ果てたという表情となる。そしてただ一人、先程からずっと黙ってミレス・アクセルカイザーの動きを自分の携帯端末で見ていたマリーは……。
「何よ、このブサイクな機体は……」
と、これ以上なく不機嫌な表情で呟くのであった。
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