第419話
「まさか俺もトライアルに参加することになるなんてな……」
「そうだね。皇帝陛下に上手く乗せられちゃったね」
魅火鎚でサンダースとベックマンが騒いでいた頃、コロニー内のとある軍事施設でジョットがトライアルに参加するためにアレス・ランザの整備をしていると、彼の側で整備の手伝いをしていたマリーが話しかけてきた。
「でも、皇帝陛下の言うことも確かだよね。これからジョット君が貴族としていくなら他の貴族や軍人に顔を覚えてもらった方がいいからね」
マリーに続いてマーシャがジョットに話しかける。
皇帝はジョットにトライアルに参加して好成績を出せば、それを見にきた軍関係者達に好印象を与えて良い関係を築けると言ってジョットをトライアルに誘った。
辺境コロニー群の一般市民からいきなり出世して貴族となったジョットには繋がりのある貴族の家なんてあるはずがなく、皇帝とマーシャの言う通りこれから今回のトライアルは軍関係者との繋がりを作る絶好の機会と言えた。しかし……。
「ほとんど取ってつけたような言い訳だがな」
マーシャの言葉にセレディスが腕を組み不機嫌そうに言う。
昨日、皇帝がジョットをトライアルに無理矢理参加させようとした時、皇帝はジョットにここで軍関係者との繋がりができた時の利について説明して、トライアルに参加する兵器メーカーの社員達にはアレス・マキナ相手に自分達が作ったミレス・マキナがどこまで通用するか試せると言った。ここまで聞けばジョットにも兵器メーカー達にも利益がある話に聞こえるが、セレディスからすれば単にジョットをトライアルに参加させたいだけで、繋がり等の話はその場で考えた建前に過ぎないことは明白であった。
「でも皇帝陛下はなんで俺をトライアルに参加させたんだ?」
「そんなのは決まっています。きっとトライアルの最中でジョット様の動きに何かしらのミスがないか粗探しをして、嫌味を言う口実にするためです」
「ち、小さすぎる……! そんな器が小さい人が皇帝で大丈夫なの、この国?」
『『……』』
ジョットが今更ながらの疑問を口にするとセレディスと同じくらい不機嫌なシレイアが皇帝の考えを言い当て、それを聞いたマリーが思わず呟いてムムとペルルが同意するように頷く。マリー、ムム、ペルルの言動はとても自国の皇帝に対する敬意が感じられないものであったが、この場にそれを咎める者は誰もおらず、実の娘であるシレイアもそれに同意していた。
「本当ですよ。普段は皇帝に相応しい度量があるはずなのに、どうしてこう恥ずかしいことをするのでしょうか……? でも安心してください、ジョット様。お父様ができる嫌がらせはここまでで、トライアル中に妨害等をする余力はないはずですから」
シレイアは呆れたような顔でため息を吐いた後にジョットに話しかける。
以前の決闘騒ぎでの皇帝の暴走は全てシレイアを通じて皇室に報告されており、これには皇后を初めとする皇室の全員が呆れるか怒っており、その罰として皇帝には政務を行うための最低限の資金と権力しか持てないように皇室の全員が働きかけていた。そのため今の皇帝は護衛の機士に命令を出して動かすこともできず、精一杯の嫌がらせが皇帝の名を使ってジョットがトライアルに参加するように周りを誘導することだったのである。
「……そう願いたいよ。本当に」
ここまでして自分に嫌がらせをしようとする皇帝の執念に呆れながらジョットはシレイアの言葉にそう返し、それから一時間後に整備を終えたジョットはアレス・ランザをトライアルが行われる会場へ送るのであった。
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