第441話

「……ということがあったんだけど、どうしたら良いと思う? ベクえもん?」


「誰がベクえもんだ。あと今すぐ大清光帝国に報告しろ、馬鹿野郎」


 9543番との会話からしばらくした後。ジョットはベクえもん……ではなく、苦労人機士Beckman……でもなく、頼りになる友人であるベックマンに火颶槌まで来てもらって9543番について相談することにした。


 そしてジョットから9543番の話を聞いたベックマンは、もうすでに激しい胃痛で今にも倒れそうな顔色となっており、胃の辺りに手を当てながらジョットに短くに的確な助言をした。


「今まで正体不明だったゲムマの正体や目的だなんて、個人で何とかなる案件じゃないだろ。大清光帝国の上層部に報告して、これからゲムマの対処を決めてもらう必要がある」


「はい。岩柳様の言っていることは最もなので、すでに私の方からジョット様達と9543番様の会話の映像データをお父様に送っておきました」


 今いる部屋にはジョットとベックマンだけでなく、ジョットに関係している女性達も全員いて、ベックマンの言葉にシレイアが答える。あの時、9543番と会話していたのはジョットとムム、マーシャとセレディスにカーリーの五人だけであったが、他の女性達も別の部屋でモニターから9543番の会話を聞いていたのであった。


「そ、そうですか。……でもだったら、何で俺をここに呼んだんだ?」


 できたら呼ばないでほしかった、そしてこんな厄介ごとにしかなりそうもない話なんか聞きたくなかったと考えながらベックマンが聞くと、ジョットは彼をここに呼んだ理由を話した。


「実はゲムマの正体や目的のこともそうなんだけど、9543番についても相談したくて呼んだんだ。彼女、どうやらここが気に入ったらしくて、あの話の後にしばらくここに住むと言い出して……」


『『……………………』』


 ジョットの言葉にいつも無表情なムムとペルルを除く、この場にいる女性達全員が微妙な表情となりベックマンが納得する。確かにいくら人類そのものを攻撃するつもりはなくても、今まで人類と戦ってきた敵が送り込んできた存在がいるとなると安心はできないだろう。


「ああ、例のゲムマ……じゃなくて、それを操っている意思を持つ惑星が送ってきた……使者、か? なんだか紛らわしいな? まあ、いい。それでその9543番とやらは今どこにいるんだ?」


「今は格納庫でアレス・ランザを見ているよう。何でもアレス・ランザに興味があるんだって」


「……………!? ……お前は何を考えているんだ!?」


 9543番が格納庫でアレス・ランザを見ていると聞いてベックマンは一瞬気が遠くなりかけたが、何とか踏み止まるとジョット達に向かって叫ぶ。


「ベッ、ベックマン? 一体どうしたんだ?」


「どうしたんだ、じゃない! お前はいい加減自分達の立場を自覚して、危機感を持つべきだ! ……他の皆も!」


 突然大声を出したベックマンにジョットが話しかけると、ベックマンはジョットだけでなくこの場にいる全員に向けて言う。


「いいか? この火颶槌には大清光帝国の皇女、リューホウ王国の王族とも繋がっている上位貴族のご令嬢二人、そして大清光帝国の武力の象徴の一つであるアレス・マキナとその機士が揃っているんだぞ!? 正直な話、ここは今惑星エイトスで最も重要な場所と言っても過言ではなく、ここでもしその9543番が何かをしでかしたら、冗談ではなく真道学園の教師陣は責任を取らされて首が飛ぶぞ!」


「……あっ」


 ベックマンの言葉にジョット達は、9543番のことも含めて最近色々なことがありすぎて感覚が麻痺したせいか忘れていた自分達の重要性を思い出す。


(そして! その場にいながら何もしなかったとして、俺にも責任の飛び火が来る可能性も……!)


「おいっ! ベックマン!?」


 最悪の可能性を考えたベックマンは胃痛が酷くなった腹部に手を当てながら、9543番がいるであろう火颶槌の格納庫に向かって走り出すのであった。

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