第442話

「お前がゲムマ……いや、9543番か?」


「うん? そうだけど君は誰だい? ジョット君の知り合い……って、うわぁ……?」


 火颶槌の格納庫に着いたベックマンがそこにいる9543番に話しかけると、彼女は振り返ってベックマンを見た途端に微妙な表情となった。


「おい、何だよその顔は?」


「いや、ゴメン。気を悪くしたのだったら謝るよ。ちょっと君がその……色んな意味で今まで見たこともないくらい酷かったから、つい……」


「全然謝っていないよな!?」


 いきなりな9543番の態度にベックマンが聞くと、彼女は軽く謝るのだが続けて言った言葉にベックマンは怒声を上げる。


「? ベックマン、いきなり大声を出してどうしたんだ? 落ち着けって」


 ベックマンが怒声を上げるのと同時にジョット達も格納庫にやって来て、事情はよく分からないが取り敢えず落ち着かせようとジョットがベックマンに話しかけると9543番が口を開く。


「ジョット君。君の友達は中々に面白いね? そこまで奇妙な運命力を持つ生命体は中々いないよ?」


『『運命力?』』


 9543番の口から出た単語にジョットとベックマンが揃って彼女の方を見ると、9543番は興味深そうな視線をベックマンに向けながら頷く。


「そう、運命力。全ての存在が持つ、因果律を超えて運命を引き寄せる力。君達には『幸運』とか『不運』と言った方が分かりやすいかな?」


「運命力……幸運と不運? 9543番にはそれが分かるのか?」


 まるで自分達の幸運や不運が分かるような9543番の言葉にジョットが聞くと彼女はそれに頷く。


「分かるよ。……やっぱり君達人類は精神波や運命力を認識できていないんだね? たまに人類にも精神波や運命力を認識できる人がいるって噂で聞いたことがあるんだけど」


「それって、霊能力者とか占い師のことか?」


 9543番の話を聞いてベックマンが思わず呟く。ミレス・マキナとアレス・マキナも精神波という現代の科学でも完全に解明されていない力で動かしているため、ジョット達は9543番の話を否定することができず、つい最近婚約者絡みの不幸に遭ったベックマンは占いに関する話を聞く時は真剣に聞こうと心に決めたのであった。


「ここにいる皆は全員強い運命力を持っているんだけど、ジョット君とそこの君はその中でも特に強くて奇妙な運命力を持っているんだ」


 9543番はそう言うとベックマンを指差す。


「ジョット君はプラス面とマイナス面の両方の性質を持った……要するに幸運と不運を同時に呼び込む運命力を持っていて、大きな災難に打ち勝てばそれと同じだけ大きな幸運を得られる。心当たりはない?」


「……あるな」


 言われてみればジョットは今まで何度も強敵と戦った後に出世をしたり婚約者が増えたりしていて、9543番に聞かれて彼は今までのことを思い出して頷いた。


「それでそっちの君は……その……。こう言ったら悪いんだけど凄まじいまでのマイナス面の性質を持った、もはや災厄と言っても過言ではない不幸を呼び込む運命力を持っていてね? もう何で今まで生きていられたか不思議なくらい……というか、むしろ不幸過ぎて一周回って僅かにマイナスとマイナスが干渉しあってプラスになるっていう、宇宙全体でも珍しいバグを起こしているの」


「はぁっ!?」


 9543番の言葉にベックマンは思わず声を上げる。確かに子供の頃から運が悪い方だとは思っていたし、この最近は何かに呪われているんじゃないかと思うくらい不幸だったが、こうもはっきり不幸になる運命だと言われると流石に落ち込みそうになる。


「まぁ、その……あれだね? これから大変なことが続くと思うけど、頑張ってね?」


「………」


 恐らくゲムマ……正確にはそれを操る惑星に同情される人類は宇宙広しとは言えベックマンくらいだろう。


 9543番に慰めの言葉をもらったベックマンはその場で崩れ落ち、ちょっとだけ泣いた。

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