銀河戦場遊戯アレスマキナ ~まぐれで勝ったら出世して、巨乳で美人な嫁がたくさんやって来ました~

小狗丸

序章

第1話

「ハァ……! ハァ……!」


 祭夏・ジョットは自分の戦闘機のコクピットの中で、恐怖に震える指でコクピット内の機器を操作していた。中古品のパーツや修理したジャンク品で組上げた機器が、お世辞にも快調とは言えない不機嫌な音を立てながら起動していく。


『おい! 坊主! お前、何をやっているんだ!?』


 コクピットの通信機から男の大声が聞こえてきた。声の主は今回の仕事で知り合った作業員の男であった。


「俺の『ミレス・マキナ』で皆が逃げる時間を少しでも稼ぎます」


『……!? 馬鹿か!? 坊主のミレス・マキナってあのボロボロの奴だよな! 正規軍のミレス・マキナが何も出来ずにやられたの見ただろ!? 坊主のミレス・マキナじゃ時間稼ぎにもならねぇよ!』


 ジョットが自分が何をするつもりなのかを言うと、再び通信機から作業員の男の大声が聞こえてきた。


「それでも何もしないよりマシですよ」


 ジョットは通信機越しで作業員の男にそう言って目の前のモニターを見ると、モニターには十数メートルの巨大なロボットの姿が映っていた。モニターに映っているロボットは、頭や手足といった各パーツの外見がバラバラな上に出来栄えも良いとは言えず、子供がガラクタで作った人形を巨大にしたように見えた。


「ミレス・ジョット、行きます!」


 ミレス・ジョットとはジョットがつけたモニターに映るロボットの機体名だ。コクピットの中で彼が声を大にして言うと、モニターの中でミレス・ジョットが一人でに動き出して空高く飛び上がり、その様子を確認してからジョットが精神を集中すると……。


 ジョットの精神は自分の身体から空高く飛び上がったミレス・ジョットの機体へと移り一体化したのであった。


(自分じゃ勝てないのは分かっているけど……怖くて怖くて仕方ないけど……それでもやるしかないじゃないか)


 ミレス・ジョットと一体化したジョットは心の中でそう呟くと、空を飛ぶスピードを速くしながら遥か上空にいる外見を次々にと変えていく巨大な金属の塊、「敵」にと視線を向けた。


 ☆


 この宇宙で最も有名な兵器は何かと聞くと、ほとんどの人間が「ミレス・マキナ」か「アレス・マキナ」と答えるだろう。


 ミレス・マキナとは「機士」と呼ばれるパイロットの精神波によって遠隔操作される巨大な戦闘ロボットのことで、アレス・マキナはミレス・マキナの上位機種である。


 機士という重要だが非常に繊細なパーツを積まなくていいミレス・マキナは、有人機では考えられない凶悪なまでに速くて複雑な動きを実現し、そこから発揮される戦闘力は他の兵器とは一線を画していた。


 そしてミレス・マキナという兵器の最大の利点は遠隔操作で動く無人機であるという点。もし機体が敵に破壊されても機士は傷つかないという事実は自軍の戦力と戦意の低下を防ぐだけでなく、機士を死の恐怖から解放してより大胆かつ苛烈な戦いぶりを可能とさせるのだった。


 宇宙でも有数の星間国家の一つ「大清光帝国」によって開発されたミレス・マキナはすぐに戦場の主役となり、無人機同士の戦いが主流となったことによって戦場で死ぬ者の数も激減した。そしてミレス・マキナが開発されて戦場に出てから百年が経つと、人類は戦場の恐怖を忘れて戦争を単なるゲームだと錯覚するようになっていた。


 しかし戦争がゲームだというのはやはり錯覚にすぎず、当然戦場も命が容易く失われる恐ろしい場所なのであった。


 ある日、大清光帝国の基地の一つで、大清光帝国と他の星間国家が同盟を結んだ記念日を祝う式典が開催された。当然式典には同盟国の貴族や軍人も招かれていたのだが、その式典の最中に突然「敵」が現れたのだ。


 ゲムマ。


 数百年から何処かから現れて人類に襲いかかってくる正体不明の金属生命体。


 ゲムマは一体だけでも戦艦を沈められる戦闘力を持つ厄介な存在なのだが、ミレス・マキナが開発されてからは特に大きな被害を出さずに撃退できるようになっていた。だからゲムマが現れると軍人達はすぐにアレス・マキナを含めた数十機のミレス・マキナの部隊を発進させて、これでゲムマもすぐに撃退されるだろうと誰もが思った。


 だがそんな人々の予想はすぐに覆されることになる。


 ゲムマを撃退するため出撃した数十機のミレス・マキナとアレス・マキナだったが、ゲムマに接近した機体から次々と攻撃を受けたわけでもないのに行動不能となっていったのだ。自分達の最大戦力であるミレス・マキナの部隊が全て訳が分からないまま行動不能になったのを見て、式典に参加していた人々は百年ぶりに戦いの恐怖を思い出して死を覚悟した。


 するとそんな時、軍のものとは明らかに違う、寄せ集めのパーツで作られた一機のミレス・マキナが出撃してゲムマに立ち向かった。


 新たに出撃したミレス・マキナは、先に出撃した軍のミレス・マキナのように行動不能にならずに最後まで戦い、ついにはゲムマを撃退して基地にいる全ての人々の命を救ったのである。

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