第494話

 更にそれから十日後。ジョット達はギラーレ同盟の本国であるコロニー郡へと向かっていた。


 ジョット達がギラーレ同盟へと向かっているのは6567番と戦う「準備」が整ったのもあるが、それ以上にギラーレ同盟からの救援要請が深刻なものとなったいう理由があった。


 6567番はあれからもゲムマを何度もギラーレ同盟へと送ってその度に多くのミレス・マキナや宇宙戦艦を奪い、ギラーレ同盟は人的被害こそは出ていないが大きな被害を受けていた。度重なるゲムマの襲撃と自国の軍が一度も勝てていないという事実にギラーレ同盟の国民達の不安と不満は高まり、更にゲムマの襲撃が続いているという理由から他国からの輸入も途絶えてしまい、食糧を初めとする様々な物資のほとんどを他国から輸入に頼っているギラーレ同盟は頭を悩ませることになったのである。


 いよいよ後がなくなったギラーレ同盟はなりふりを構わなくなったのか、大清光帝国を初めとする周辺国家へ行っていた救援要請に救援に来てくれた場合は何らかの形で恩義を返す内容を加え、大清光帝国はそんな懇願にも近い救援要請を受けた形でジョット達をギラーレ同盟へ送ることを決めたのだった。


「助けてくれたら恩を返すと言っているけど……。ギラーレ同盟って約束守れるのか?」


「守れるわけないでしょう」


「守れるわけないだろう」


 ギラーレ同盟まで向かっている最中、魅火鎚の待機室でジョットが今までのギラーレ同盟の行動を思い出して呟くと、マーシャとセレディスが即答する。


「ギラーレ同盟は今までに何度も経済的な危機に直面してリューホウ王国を初めとした色んな国々に助けてもらってきたんだけど、その時に借りたお金を一才返そうとしないどころか『他国が経済を利用してギラーレ同盟を支配しようとしている』とか言って、自分達が被害者みたいな顔をしてきたんだよ?」


「かと言って経済支援を断ったら、自分達の本国がコロニー郡で資源が乏しいことを逆手に取って『弱者を見捨てるのか?』とか『自分達に飢え死にしろとでも言うのか?』とか声高に叫んで他の国々との心証を悪化させてくるからな……。この百年でギラーレ同盟が他の国々にかけてきた迷惑は数知れない。だから今回は6567番を理由にして、リューホウ王国を含めた多くの国々がギラーレ同盟の救援要請を断ったというわけだ」


「そうなのか……?」


 貴族になる前からギラーレ同盟の良い噂は聞いていなかったが、予想以上にギラーレ同盟にやらかしているのを知ってジョットは信じられないといった気持ちとなって呟くと、マーシャとセレディスだけでなくシレイアまでもが一緒になって頷く。


「そうなのです。ギラーレ同盟の皆さんの行動にはお父様もいつも困らされているそうです」


「これは前にも言ったかもしれないが、6567番の件がなかったらギラーレ同盟には関わりたくないのだがな……」


「別に良いじゃない? その方がこっちも好都合だと思うよ」


「ええ、そうですね」


 シレイアとセレディスが嫌そうな顔をして言うと、待機室に入ってきたマリーとシャルロットがそれに返事をする。


 この数日間、不眠不休でジョット達の新しい機体作りに集中していたため、それが終わると気を失ったかのように今まで眠っていたのだが、どうやら目覚めたようだった。マリーもシャルロットも、連日の作業の疲れはまだ抜けきっていないようではあるが、自分達の仕事をやり遂げた達成感によってその表情からは活力が感じられた。


「周りから嫌われてて、それでいて切羽詰まっているギラーレ同盟だったら、本国の近くで派手に戦っても文句は言われないでしょう?」


「今回ばかりはマリーさんに同意ですね。私達が完成させた『あの子達』は中々の暴れ馬ですから。全力で戦うにはギラーレ同盟はある意味ちょうど良い場所だと私も思います」


「……」


 ジョット達の新しい機体はすでに完成していて魅火鎚の格納庫に格納されており、マリーとシャルロットは新しい機体に自信があるようなのだが、その機体の性能を知っているジョットは僅かな不安を感じるのであった。

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