第504話
「来るぞ! 皆、距離を取れ!」
こちらに突撃してくる1672番のゲムマを見てセレディスがジョット達に指示を出し、ジョット達四人はそれぞれ自分の機体を動かして1672番のゲムマから距離を取ろうとした。すると1672番のゲムマは身体をゴムのように変形させて、身体のいたる所から無数の触手のようなものをジョット達に向けて伸ばす。
「……!? これはちょっと悪趣味じゃないか?」
1672番のゲムマが伸ばした触手の先端には身体に浮かんでいた6567番の顔があり、恐怖や苦悶の表情を浮かべながら自分達を噛みつこうと向かって来る6567番の顔を見てジョットは思わず呟いた。
「1672番の話が本当だとすると……」
「ええ。あの6567番様達に噛みつかれたら機体の操縦が出来なくなると言うことですね」
マーシャとシレイアが1672番の触手が悪趣味なだけの攻撃ではないこと見抜き、自分達に襲い掛かろうとしている触手に蛇腹刀とビームソードを振るうと、1672番の触手はマーシャの蛇腹刀とシレイアのビームソードによってあっさりと断ち切られて動きを止めた。
「動きは単調だし、注意していれば当たることはなさそうね」
「はい。それに強度もそんなにないみたいですし、これだったら……」
「……! マーシャ! シレイア! そこから離れろ!」
1672番の触手を簡単に斬り落とせたことで安心をしたマーシャとシレイアに、何かに気づいたジョットが叫ぶ。彼の声を聞いたマーシャとシレイアはほとんど反射的にその場から離れると、先程斬り落とされて動きを止めたはずの1672番の触手が彼女達がいた空間を通過した。
「なるほどな。斬り落とされて動きが止まったフリをして油断を誘ったわけか。……中々味な真似をしてくれる」
「………」
ジョットの言葉のお陰で触手の奇襲を避けれたマーシャとシレイアを見て、事情を察したセレディスが1672番を見ると彼は楽しそうな笑みを浮かべていた。その表情はまるで、この程度は防いでくれないと面白くない、と言っているようであった。
「……これはちょっと、いや、かなり面倒くさいな」
1672番の触手を避けながらジョットは、マーシャとシレイアが斬り落とした触手を見ながら言う。
考えてみれば1672番達は単独で複数のゲムマを操れるため、斬り落とした程度で触手が行動停止になるはずがなく、斬り落とされた触手は素早く動けるだけでそこまで攻撃力はないみたいだが、今回ばかりは話が違っていた。1672番のゲムマは機体に接触することで精神波を遮断して操縦を妨害できるため、斬り落とされた触手は機体にダメージを与えられなくても、接触するだけでジョット達を戦闘不能にできるのだ。
つまり1672番のゲムマの触手を斬り落とすという行為は、1672番の攻撃の手数を減らすどころかその逆。しかも斬り落とされた触手はゲムマと繋がっている触手とは別の角度から襲ってきて、攻撃の複雑さを増す結果となったのである。
「しかもこれは……8789番の時と同じか」
ジョットが周囲を見回すと、1672番のゲムマの触手はジョット達を包囲するような動きを見せており、その様子は8789番のゲムマ・ランザと戦った時とよく似ていた。
「このままだと、いつかは捕まってそこで終わりだ。皆、出し惜しみは無しで全力で触手ごと1672番のゲムマを破壊するぞ」
『『………』』
時間をかければかけるほど自分達が不利になると考えたジョットがマーシャとセレディスとシレイアに言うと、彼女達も同意見だったのか無言で頷くと自分達の武器を構え直すのであった。
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