第503話

「精神波を遮断して機体の操縦を妨害するゲムマ……。俺達機士の天敵のような相手だな。……9543番? アイツ、1672番が操縦の妨害をできる範囲って分かるか?」


「あ〜……。ゴメン、それはワタシも知らないかな」


 ジョットが以前戦ったことがある禁じ手を使ってミレス・マキナの操縦を妨害してきたゲムマは、自らの精神波で操縦を妨害できる範囲が限られていた。だからジョットは9543番に1672番のミレス・マキナの操縦を妨害できる範囲を知っているのか聞くのだが、9543番も知らなかったようで首を横に振り、彼女に変わって意外な人物がジョットの質問に答える。


「安心してくれ。精神波を閉じ込められる範囲は全く無い」


「え? 1672番?」


 ジョットの質問に答えたのは1672番で、自分の能力を敵であるジョット達に話す1672番を9543番が驚いた顔で見る。


「ボクのゲムマはキミ達の機体に身体の一部を取り付けることで、初めてキミ達の精神波を引き寄せ閉じ込めることができる。相手の精神波の波長に合わせて素材の分子構造を調整すれば、1672番のように距離や方向も関係もなく精神波を引き寄せて閉じ込められるけど、戦いながらキミ達の精神波の波長を調べて素材の分子構造を調整することはボクでも難しい。だからボクは高速で近づいてからの直接攻撃が基本的な戦い方になるから、キミ達はボクの攻撃を受けないように距離を取って戦った方がいい」


「自分の戦い方どころか、その対処法まで教えてくれるだなんて随分と太っ腹だね?」


「そうだな。お前のゲムマの素材について黙っていれば、私達を倒すのも簡単だったはずだ」


 自分のゲムマの能力だけでなく、自分との戦い方を説明してくれる1672番にマーシャが思わず呟き、セレディスがそれに頷く。しかし1672番はマーシャとセレディスの言葉に何でもないように答える。


「大したことじゃない。キミ達の戦い方や武装はさっき6567番と遊んでいる時に見せてもらった。だったらボクの方も能力や戦い方を教えないと不公平だろう?」


「あくまでルールを守って公平に私達人類との戦いを楽しみたいみたいですね」


「ああ。……それにしても今まで会ってきた敵の中で一番強いんじゃないか?」


 1672番の言葉からは純粋に人類との遊び戦いを楽しみたいという気持ちが伝わってきて、自分も同意できる点があるのかシレイアが興味深そうに目の前のゲムマを見ていると、その隣でジョットが1672番に対する警戒を上げていた。


 元々辺境のコロニー郡の庶民であったジョットは、アレス・マキナを所有する貴族となった今でも自分が「強者」だとは思っておらず、なんなら過去と変わらず「弱者」だと思っている。


 だからこそジョットは今まで強敵と戦う時は、相手の虚を突く奇襲のような戦い方やトリックスターのような反則技に頼ってきた。そんな「弱者」であるジョットだからこそ、目の前にいる1672番が自分のような奇襲や反則技にも頼らなくても正攻法の戦い方だけで相手を倒せる「強者」であると理解したのだった。


 そして1672番の実力に気づいているのはジョットだけでなくマーシャとセレディスとシレイアも同様で、彼らが武器を構え直すのを見て1672番は心から嬉しそうな笑顔を浮かべる。


「うん……うん……。いいよ、キミ達。凄くいい。ボクの精神波を閉じ込める能力を聞けば、ボクの仲間達ですら恐れて戦意を喪失するのに、キミ達はボクに勝つつもりで戦いを挑もうとしている。……正直、キミ達のその姿だけで人類はボク達が本気を出しても心が折れないという証明になるのだが……せっかくだからもう少し試させてもらってもいいか?」


 元々1672番と6567番がここにやって来たのは、ゲムマの真の力を見ても人類が絶望して自ら滅びの道に進まないか見極めるためであった。そして1672番が言った通り、彼の能力を知っても戦意を喪失しないジョット達の姿ですでに見極めは終わっているのだが、自分達と遊んで戦ってみたいと顔に出している1672番にジョットが話しかける。


「構わないよ。……遊ぼうぜ」


「……。……………!」


 ジョットの言葉を聞いて1672番は、今日初めて見せる獰猛な獣のような笑みを浮かべると自分のゲムマをジョット達に突撃させるのであった。

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