第502話

「9543番? アイツ……6567番でいいんだよな? 急に動かなくなったんだけど、あの1672番って奴は何をしたんだ?」


 ジョットは1672番に話しかけられたと思ったら急に動きが止まった6567番を見て9543番に話しかける。だが9543番は驚いた顔で1672番と彼が操るゲムマを見ており、ジョットの声が聞こえていないようだった。


「あれってまさか……!? あの噂って本当だったの? だから188番は1672番を6567番に同行させていたってこと?」


「おい、9543番? 一体どうしたんだ? やっぱり6567番が動かなくなったのは1672番が関係しているのか?」


「え? ああ、ゴメン。……うん。あれは1672番の仕業だよ」


 一人呟いていた9543番は再びジョットに声をかけられるとそこでようやく気づき、1672番が6567番に何をしたのかを説明する。


「アレはワタシも初めて見たし、詳しくは知らないんだけど……1672番の本体である惑星には精神波に干渉できる宇宙でもとても珍しい素材が採れるらしいの」


「精神波に干渉できる素材?」


 9543番の話にマーシャが聞くと、9543番は頷いて話を続ける。


「そうだよ。その素材は精神波をまるで磁石のように引き寄せて閉じ込める性能を持っているらしいの。そして1672番のゲムマはその素材で作られていて、6567番の精神波を引き寄せて閉じ込めているの。……見て」


 そこまで言って9543番が1672番のゲムマを指差すと、表面に何の突起も起伏もないのっぺらぼうな人型であった1672番のゲムマの身体のいたる所に、6567番の顔がいくつも浮かび上がる。そしてその6567番の顔の全てが恐怖に歪んでいた。


「今、6567番の本体である惑星は何とか自分の分身を操作しようと精神波を送っているんだけど、その全てが1672番のゲムマに吸収されているの。あの6567番の分身とゲムマが急に止まったのは本体からの精神波が届かなくなったからだね」


 説明をする9543番は恐ろしいものを見る目を1672番に向けていた。


「精神波を吸収されて閉じ込められるとワタシ達意思を持つ惑星は、分身を動かせなくなるってだけじゃなくて外部からの情報を一切得られなくなるの。……だから今の6567番は何も見えなく感じられない宇宙空間よりも何も無い世界に閉じ込められているようなものなの。ワタシ達惑星は眠ることも飢え死ぬこともできなくて、そんな状態でいつまでも何も無い世界に閉じ込められるだなんて、意思を持つ前ならともかく今ではとても耐えられないって」


『『…………』』


 9543番の話を聞いてジョット達は、彼女が1672番を恐れている理由が分かった気がした。


「それで精神波を封じられる1672番は仲間が他の仲間に迷惑をかけた時、その迷惑をかけた仲間を止めたり処罰する役目を与えられているっていう噂があったんだけど……まさか本当だったなんて」


「なるほどな。……それでさっきから気になっていたんだけど、ゲムマの精神波を封じられるってことは、俺達の精神波も封じられるのか? でも確かお前達ゲムマって、俺達の精神波を遮断して機体の操縦を妨害するのを禁じ手にしていなかったか?」


 9543番達ゲムマは人類との遊び戦いにいくつかのルールを設けており、その中には精神波を遮断してミレス・マキナとアレス・マキナの操縦を妨害する行為を禁止するルールがあった。そのことについてジョットが9543番に聞くと、彼女は申し訳なさそうな表情となって答える。


「うん。聞いた話だと1672番のゲムマはジョット君達人類の精神波も閉じ込めることが出来るよ。……それでこれはジョット君達には悪い報せなんだけど、ワタシ達の中で禁じられているのは『自分達の精神波で相手の精神波を遮断する行為』だけで『自分のゲムマの能力で相手の精神波を遮断する行為』は禁じられていないんだよね」


『『…………!?』』


 9543番の言葉を聞いてジョット達は、目の前にいる1672番がギラーレ同盟の軍隊を壊滅寸前まで追い込んだ6567番よりもずっと厄介な存在であることを理解して言葉を失うのであった。

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