第516話

 ギラーレ同盟の人間達のほとんどは、辛いことはすぐに忘れて物事を自分に都合の良い方に考える傾向にある。この良くも悪くも超が付くくらい前向きな性格が今日までの行動に繋がり、今では「宇宙一の嫌われ者」という不名誉な二つ名で呼ばれるようになったのだが、それでもギラーレ同盟の人間達はその性格を改めようとしないどころか悪い点に気づきもしなかった。


 そんなギラーレ同盟の軍人達だから、最初はジョット達の屋敷のセキリュティシステムのテストをしろと言われて警戒していたが、渡された武装を装備して準備をしているうちにせっかくの警戒心を無くしていき更には……。


「これだけの武装があれば、屋敷のセキリュティがどれだけ強固でもでも突破できるはずだ」


「そうなれば我々はあの悪魔共黒翼・ヘビー・マシーナリーの魔の手から逃げられる」


「いや、せっかくだからガードロボットが守っている重要施設を制圧して屋敷を奪ってしまおう」


「この屋敷は恐らく黒翼・ヘビー・マシーナリーにとっても重要な場所のはずだ。屋敷の情報を持ち出せたら、ギラーレ同盟もきっと喜んで我々を英雄として迎えてくれるはずだ」


「それはいい。今なら武装も十分に揃っている。優秀な我々ならそう難しくはないだろう」


 と、いうよく分からない自信に満ちた発言をして用意された武装で固めたギラーレ同盟の軍人達は、意気揚々とジョット達の屋敷の中に入っていった。


 しかし、ジョット達の屋敷はやはり「あの」黒翼・ヘビー・マシーナリーが作った作品。狂人達の趣味趣向が凝り固まった狂気に満ちた世界であることを、ギラーレ同盟の軍人達はすぐに理解することになる。


 武装したギラーレ同盟の軍人達がいつでも戦えるように警戒しながらジョット達の屋敷に入るが、中は上流階級の人間が暮らすような上品な造りをしている上に高価な調度品も揃っており、その様子にギラーレ同盟の軍人達は揃って意外そうな顔をする。


「……何だ? 意外と普通の屋敷だな?」


「そうですね。てっきりもっと……え?」


 ヴィー! ヴィー! ヴィー!


 屋敷の内部を見てギラーレ同盟の軍人の一人が意外そうに呟き、別の軍人がそれに頷いて何かを言おうとすると、屋敷の内部に警報が鳴り響いた後に合成音声が何処からか聞こえてきた。


《緊急事態デス。緊急事態デス。屋敷内部ニ登録サレテイナイ波長ノ精神波ガ多数感知サレマシタ。侵入者ト判断シテ、コレヨリ防衛モードニ移行シマス》


 ウィィーン……バンバンバンガコンガコンギュィーンギュィーンバシュンバシュンバシュンゴゴゴゴゴ……ウォオーンウォオーンダンダンダンダンガキィンガキィンプシュー……!


 合成音声が聞こえてきたかと思うと屋敷内部の床や壁がありえない変形をして、僅か数十秒で屋敷の内部は意味不明なハシゴや足場が無数にある、まるでアクションゲームのステージのような奇妙な空間にと変わってしまった。


「な、何だこれは……!? 一体何なんだ、この屋敷は?」


「や、やっぱり、黒翼・ヘビー・マシーナリーの建てた屋敷なんて普通じゃなかったんだ……! お、俺は逃げ……うわぁあああああっ!?」


 突然屋敷の内部が変わったことにギラーレ同盟の軍人達は全員驚き、その中の一人が今入って来たドアから外へ逃げ出そうとすると、ドア周辺の床が急に開いて逃げ出そうとした軍人はドアの近くにいた別の軍人数人ごと床下へと落ちていった。


『『……………!?』』


「す、す、進むしかない! もうこうなれば自棄だ! 行くぞ!」


 逃げ出そうとした軍人と他数人の軍人が落とし穴に落ちていったのを見て他の軍人達が驚いていると、その間にドアは強固な装甲に覆われて完全に脱出は不可能となり、退路を断たれた軍人達は自分も言ったように自棄となり屋敷の中を進むのだが……。


「な、何だこのロボット達は!? まさか話にあったガードロボットか? それにしては確実に八体以上いる……ぐはっ!」


「この足場、狭すぎる……! しかも下は落とし穴って……うわぁああっ! た、助けて! 助けてくれぇっ!」


「ば、馬鹿っ!? 俺の足を掴むな! 俺まで落ち……あああっ!?」


「ぎゃあああああっ!? 電撃を放つトラップぅ!? パワードスーツごしでも………あっ……?」


「ヒィイイッ!? 天井が! 天井が下がって来る! 待って! 置いてかないでぇっ!?」


「すまないもう間に合わない! 許してくれ!」


 屋敷のセキリュティシステムによってギラーレ同盟の軍人達は次々に脱落していき、屋敷の中は悲鳴の絶えない地獄と化したのであった。

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