第515話

 時は今から一月程遡り、黒翼・ヘビー・マシーナリーの独断によって趣味全開の要塞として設計されたジョット達の屋敷がほぼ完成した時、屋敷の入り口には大勢の男女が集められていた。


「ここは一体何処なんだ?」


「いきなり連れて来られたと思ったら、何なんだ? この奇妙な建物は?」


 ジョット達の屋敷に集められたのはギラーレ同盟の軍人達であった。彼らは以前、ある任務で惑星ファイトスへと向かい、その道中で遭遇したゲムマの大群をファイトスへと引き連れてしまった挙句、今は黒翼・ヘビー・マシーナリーに捕まってそこで新兵器の起動実験のテスト要員とされていた。


「君達にはこれからこの屋敷のセキリュティシステムのテストに協力してもらう」


 ギラーレ同盟の軍人達が周囲を見回してこれから何が起こるのかと考えていると、彼らをここへ連れて来た黒翼・ヘビー・マシーナリーの職員の一人が話しかける。


「この屋敷には様々なセキリュティシステムが設置されていて、更に重要施設にはそれを守る八体のガードロボットが配備されている。そのセキリュティを突破して八体のガードロボットのうち一体でも倒したら君達を解放しよう」


『『………!?』』


 黒翼・ヘビー・マシーナリーの職員が口にした「解放」という言葉にギラーレ同盟の軍人達はざわめき立つが、職員の言葉にはまだ続きがあった。


「もちろん素手でガードロボットを倒せなどとは言わない。君達の武装はこちらで用意した。全て黒翼・ヘビー・マシーナリー製だが、君達だったら使い方は分かるだろう?」


 黒翼・ヘビー・マシーナリーの職員はそう言うとギラーレ同盟の軍人達の前に、パワードスーツを初めとする多くの武装を用意した。職員の言う通り、用意された武装は全て黒翼・ヘビー・マシーナリー製の武装であるが、ここにいる軍人達はこれらの武装の実働テストを自らの手で行なっていたため、使い方も熟知していた。


 屋敷のセキリュティシステムを突破してガードロボットの一体でも倒したら自分達を解放するという提案。そしてそれを実行するための武装の提供。


 突然の出来事にギラーレ同盟の軍人達は戸惑っていたが、やがてどうしたものかとお互い顔を見合わせて相談する。


「(おい? どうする? テストだと言っているが『あの』黒翼・ヘビー・マシーナリーのことだ。きっとろくなことにならんぞ?)」


「(いっそのこと用意された武装を使ってあの職員を倒し、ここから脱出するか?)」


「(やめておけ。ここが何処なのか分からないし、何より『アレ』を見ろ)」


 ギラーレ同盟の軍人の一人が用意された武装を使ってここからの脱出を提案すると、別の軍人がそれを即座に止めて黒翼・ヘビー・マシーナリーの職員の背後に視線を向ける。軍人の視線の先には、すでに起動していて武装を装備しているミレス・マキナが二体いて、例えパワードスーツや他の装備を装着しても勝ち目が無いのは明らかであった。


「やるしかないのか。……ん?」


 どうせ逃げられないのなら僅かな可能性に賭けようと、黒翼・ヘビー・マシーナリーの職員の提案を受けることに決めたギラーレ同盟の軍人達だったが、そこで彼らはあることに気づく。


 黒翼・ヘビー・マシーナリーの職員が用意した武装は全て青色で統一されていて、実働テストの時とは明らかに違い、それに疑問を感じたギラーレ同盟の軍人の一人が黒翼・ヘビー・マシーナリーの職員に質問する。


「一つ聞いていいか? 何で俺達の装備は全てこんなに真っ青なんだ?」


「ああ、そのことか。……そんなの、こんな要塞のような屋敷に突入するなら、色は青に決まっているじゃないか? 俺達、黒翼・ヘビー・マシーナリーは『様式美を大切にする』のがモットーだからな」


 ギラーレ同盟の軍人の質問に黒翼・ヘビー・マシーナリーの職員は、人間の頭蓋骨をデフォルメしたようなデザインのジョット達の屋敷を見上げて後、笑いながら答えるのであった。

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