第514話

 大清光帝国には「その貴族がどんな人間かを知るにはその住居を見ろ」という言葉がある。


 大清光帝国の貴族といった権力者にとって屋敷などの住居は、自分の権力を象徴するものの一つであり、住居を作る権力者は自然と設計の段階から自身の趣向を加えるのであった。


 軍人の家系で優秀な機士を輩出している権力者の住居には専用のミレス・マキナの格納庫や整備工場があったり、自領の統治に力を入れている権力者の住居には政務を行うビルに直通している専用の列車と駅があったりと、住居を見ればそこに住む権力者の家がどの様な家風なのか大体と分かるものなのである。


 そして住居を見られる側の権力者達には、外部の人間に自分達がどの様な人間か知ってもらって話し合いを円滑に行おうと考えている者達もいる。彼らは自分達の主義主張を住居のデザインして、その結果機能性はともかく外見が奇抜な屋敷が大清光帝国には数多く存在していた。


 しかし……。


「いくら何でもこれはないだろ?」


『『………………』』


 自分の領地である惑星に到着したジョットは、惑星軌道上から魅火鎚のブリッジのモニターで自分達が暮らす屋敷を見て思わず呟いた。ブリッジにいる他の仲間達は無言でブリッジのモニターを見ていたが、ジョットと同じ気持ちであった。


 モニターに映っているジョット達の屋敷は海の上に作られた人工島そのもので、それだけならば他者に権威を見せつけるという意味や防犯セキリュティを強化するという意味でそれほど珍しくはない。


 だが肝心の人工島内にある建物は、いたる所に外部からの敵を迎撃するための兵器が備え付けられている上に人間の頭蓋骨をデフォルメした外見をしていて、それはまるで物語に登場する悪の組織の本拠地のようであった。


「……何だろう? 右手がビーム砲に変形する青い戦闘ロボットが今にも攻め込んできそうな気がするんだけど?」


「奇遇だな。私もだ。……何故ここまで出来上がるまで報告が私達の所に来なかった?」


 モニターに映る屋敷の外見に昔遊んだことがあるアクションゲームを思い出したジョットが呟くと、それに頷いたセレディスがシレイアに話しかける。


「……申し訳ありません。先日も言いましたが、私も屋敷のことを知ったのはつい最近なのです。どうやら屋敷の建設を行なっていた黒翼・ヘビー・マシーナリーの技術者の方々が、報告書を改竄していたみたいでして……」


 セレディスの質問にシレイアは頭痛を堪えるかのように額に手を当てながら答えると、次にマリーの方を見る。しかし完全に開き直ったマリーは胸を張って自慢するように話し出す。


「ふふん♩ どう、恐れ入った? 黒翼・ヘビー・マシーナリーのモットーは『コッソリと大仕事を完成させて皆を驚かすこと』! その私達の手にかかれば、周りの目を誤魔化して自分達の屋敷を趣味全開の要塞にすることなんて難しくないわ!」


「威張って言うな。……でも要塞か」


 マリーの言葉にジョットは疲れた声で返したが、すぐにある事に思い至って周囲にいる自分と関係がある女性達を見る。


 マリーとシャルロットは兵器メーカーの社長令嬢で技術主任者。


 マーシャとセレディスはリューホウ王国の王族とも繋がりがある上位貴族の出身。


 そしてシレイアは大清光帝国の皇女の一人。


 ジョットと結婚している、あるいは婚約している女性達は全員、その家系や能力から他の人間に敵視されかねない。そんな彼女達を守ることを考えたら、あれくらい外部に威圧感を与える要塞の方が安心できるのではないかとジョットは思った。


「マリー? あの屋敷の防犯セキリュティは大丈夫なんだろうな?」


「もちろん! 屋敷の外の迎撃装置だけじゃなくて、屋敷内にもアクションゲーム並みのセキリュティに防衛ロボットが充実しているから! それに発電施設やコントロールルームみたいな重要施設には、パワードスーツを着た戦闘チームにも互角以上に戦える専用の武装を持った戦闘ロボットを八体配置しているし、安全面はバッチリだよ!」


「……そうか」


 ジョットの質問にマリーは自信満々に答え、それを聞いたジョットと他の仲間達は感心すればいいのか呆れたらいいのか分からず微妙な気分となるのだった。

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