第520話

「……ん? もう朝か。……それにしてもこのベッドはまだ慣れないな」


 ジョットが自分の領地である惑星に来た日から三日後。朝目覚めた彼は自分が寝ているベッドを見て呟いた。


 ジョットが今いるのは、黒翼・ヘビー・マシーナリーによって建てられた悪の組織の要塞のような自分達の屋敷にある寝室で、そこにある十人以上が眠れそうなくらい巨大で高級なベッドの寝心地に庶民出身の彼は違和感を感じていた。そして更にジョットにはこの寝室に慣れない理由がもう一つあった。


「慣れないと言えば、この光景もまた凄いよな……」


 そう呟いたジョットがベッドの上を見回すとそこにはムム、マリー、マーシャ、セレディス、シレイア、ペルル、カーリー、シャルロットと、彼と結婚または婚約した八人の美女達が無防備な寝巻き姿で眠っていた。


 この三日間、ジョットは彼女達と同じベッドで眠っていて、彼女達の何人かとはすでに何度も肌を重ねているのだが、それでもこれだけ大勢の美女達と一緒に眠っていて意識するなと言う方が無理だろう。


「こんな光景、真道学園の男子生徒達に見られたら八つ裂きにされるよな? それに……」


 ジョットは真道学園で自分に嫉妬の感情をぶつけてきていた大勢の男子生徒達の顔を思い出した後、この三日間の夜にベッドの上でお互い牽制し合うマリー達の姿も思い出し、女性同士の戦いの恐ろしさをほんの一部だが理解したような気がした彼はしみじみと呟いた。


「自分から望んだわけじゃないけど、大勢の嫁をもらうのって大変なんだな……」



「それにしても広すぎる家って住み辛いイメージがあったんだけど、結構快適だね?」


 屋敷の食堂で朝食を食べながらジーナが素直な感想を口にする。


 サンダースとベックマンはすでに真道学園に戻っていて、この屋敷にいるのはジョットと彼に関係している女性達だけで、その少人数では巨大な人工島そのものである屋敷は広すぎるとジーナは思っていたが、屋敷内の設備が充実しているため今のところは快適な日々を送れていた。


「それはそうでしょ。なんて言ったって私達、黒翼・ヘビー・マシーナリーが建てた屋敷なんだから。警備も生活施設も完璧。惑星の核に超高出力ビームを発射して崩壊させる惑星自爆装置だって……あっ、これは言っちゃいけないんだった……」


「ヲイ? 今、何て言った? 惑星の核を崩壊させるとか、惑星自爆装置とか物騒すぎることを言わなかったか?」


「い、言ってない、言っていないよ? そ、それよりも、ジョット君のお父さんとお母さんの部屋だけど、本当に『アレ』で良かったの?」


 ジーナの呟きに答えている途中で思わず口を滑らせたマリーにジョットが問い詰めようとするが、マリーはそれを誤魔化すように別の話題を口にした。


 今日は辺境のコロニー群にいるジョットとジーナの両親がこの屋敷に来る日だった。二人の両親を屋敷に呼んだのは、今回の結婚式でジョットが大清光帝国の皇族とリューホウ王国の王族の関係者となるため、そこから起きるかもしれないトラブルから守るためなのだが、マリーは肝心の両親のために用意した部屋に疑問を持っているようであった。


「仕方がないだろう? 本人達がどうしてもって言うんだから」


 ジョットとジーナの両親の部屋は本人達が希望した通りの内装にしており、ジョットも内心ではマリーと同様に部屋の内装に疑問を持っていたが、ジーナは仕方がないと肩をすくめてみせた。


「私はお父さんとお母さんの気持ちが分かるけどね。二人ともいきなりこんな屋敷に住めって言われて戸惑っているんだし、慣れるまではあの部屋でいいんじゃないの?」

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