第3話
ゲムマが大清光帝国の基地を襲撃した事件から一ヶ月後。大清光帝国の辺境にあるコロニーの内部にある街を、今日の仕事を終えたジョットが歩いていた。
「はぁ……。何で俺はあんな事を言ったんだろ?」
街を歩きながらジョットはため息を吐いてから一人呟く。
ジョットが思い出すのは一ヶ月前、基地での軍人達との会話であった。ジョットが自分の欲望に忠実すぎる言葉を口にしたせいで基地の軍人達は揃って呆れた顔となってしまい、結局その後は彼が基地に行く理由となった仕事の給料だけを渡されて帰らされたのである。
「でもしょうがないじゃないか? 何でもくれるって言うんだから……」
正直な話、一ヶ月前のあの時、ジョットは軍人達の話をほとんど聞いていなかった。彼は子供の頃から感情がほとんど表に出ず、一ヶ月前も表情には出ていなかったが内心では非常に緊張しており、軍人達の話も全く頭に入らずにいた。
そんな状態で軍人達に「報酬には出来る限りの要望を応えるつもりだ」と言われたため、ジョットは考えるよりも先に「お金と巨乳で美人な彼女が欲しい」と自分の要望……というか欲望を口にしてしまったのである。だが後になって思い返せば、お金はともかく巨乳で美人な彼女が欲しいという要望はあり得なくて、報酬が取り止めになっても仕方がないと彼は思った。
「報酬は勿体なかったな……。でもあそこから生きて帰れただけマシか……」
ジョットが独り言を言いながら歩いているうちに周囲には人気が無くなっていた。彼が歩いている辺りは今の時間帯になると通行人が激減して、ジョットが一人で歩いていると彼の前に一人の女性が現れた。
ジョットの前に現れた女性は、まるで作り物のように整った容姿をしており、艶のある黒髪を短く切り揃えて富裕層の屋敷で働くメイドのような服を着ていた。そして胸元を見れば彼女の頭部程ありそうな豊かすぎる乳房が二つ、服の下から自己主張をしている。
こんな辺境のコロニー群では絶対に見かけない格好の美女が突然現れたことで、ジョットは思わず立ち止まって彼女を見つめてしまった。そしてメイド服の女性もその場から一歩も動かず彼を見つめているのだった。
「あの……こんな所で何をしているんですか?」
「貴方様をお待ちしていました。祭夏・ジョット様」
「……え?」
ジョットが質問をするとメイド服の女性は予想もしなかったことを言い、それを聞いて呆けた声を出す彼にメイド服の女性は深々とお辞儀をしながら自己紹介をする。
「私、本日より祭夏・ジョット様専用となった多目的アンドロイド、ムムと申します。これからはどんなご命令も私に申し付け下さい、旦那様」
「あ、アンドロイド? 君が? それで俺が旦那様? 一体どうしてそうなるんだ?」
アンドロイドとは人工脳髄に生体パーツの原型を付着させて培養させることで人間と全く同じ身体を持った人工生命のことであり、富裕層の人間の警護や秘書に使われているという話はジョットも聞いたことがある。しかしアンドロイド一体の製造費は非常に高額で、それが何故自分の元に来たのか本気で分からなかった。
「どうして、と言われましても……。旦那様が異性のパートナーが欲しいとおっしゃったから私が作られたと聞きましたが?」
「異性のパートナー? ……ああっ!?」
ジョットの疑問にムムが僅かに首を傾げて言うと、それを聞いた彼は一ヶ月前に自分が基地で軍人達に言った言葉を思い出す。
そう、一ヶ月前にジョットが言った「巨乳で美人な彼女が欲しい」という言葉を、基地の軍人達は「巨乳で美人な女性型アンドロイドを送る」という形で叶えてくれたのであった。
「どうやら思い出していただけたようですね。それでは次にこれを受け取って下さい」
ムムは初めて現れた時から両手で大切そうに持っていた鞄をジョットに手渡す。
「これは?」
「ゲムマ撃退の報酬金と、旦那様の『爵位』に関する権利書を初めとした資料です」
「…………………………………………………………………ハイ?」
鞄の中身をムムから告げられたジョットは数秒思考が停止した。
「爵位ってアレ? 貴族様のあの爵位? 貴族って誰が?」
「旦那様です。旦那様は一ヶ月前の一人でゲムマを撃退した功績により正式に『士爵』の爵位が与えられました」
「……………!?」
ジョットの質問にムムが即答すると今度こそ彼は絶句した。
大清光帝国には貴族階級が存在していて、士爵はその中でも一番下で一代限りの階級である。しかしこんな辺境のコロニー群出身の人間が士爵になるというのはそれだけで大出世と言えた。
そしてそうなると鞄の中に入っているゲムマ撃退の報酬金というのも、一般の人間では中々見ることもできない程の大金なのだろう。
「………これって、夢?」
「現実です、旦那様」
ゲムマ撃退の報酬金。ムムという巨乳で美人な女性型アンドロイド。そして士爵の爵位。
一ヶ月に自分がとっさに口にしてしまった要望がおまけ付きでいきなり実現したジョットが思わず呟くとムムが即答した。
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