第4話

「はははっ! いやー、めでたい! まさかこんな日がやって来るなんて!」


「本当にねぇ! まさかジョットが士爵になるだなんて!」


「それにお兄ちゃんのお陰でお肉も食べれたし。こんなに良いお肉、初めて食べたよ」


 ジョットがムムと出会ってから数時間後。ジョットの家の食卓では二人の男女の笑い声が聞こえていた。


 大声で笑っている男女はジョットの父親の祭夏・ローガンと母親の祭夏・クローエ、そして二人の笑い声を聞きながら厚めのステーキを食べているのはジョットの妹の祭夏・ジーナである。


 ジョットがムムを連れて家に帰った時は本当に慌ただしかった。


 まず最初に両親と妹から「あの無表情で無頓着で、金も甲斐性も無いジョットが彼女を連れてきた!?」と口を揃えて言われて、これには流石のジョットも泣きそうになった。


 次にムムがアンドロイドでゲムマ撃退の報酬として大金と一緒にジョットに渡されて、しかも士爵の爵位も付いてきたと言うと、家族は最初「詐欺ではないか?」と疑ったのだが、ムムが持ってきた資料を見て詐欺ではないと分かると大喜びした。そして今、ローガンは滅多に飲めない高級な酒を買い、クローエは高い肉でステーキを焼いてジョットのお祝いをしていた。


 ……ちなみに高級な酒やステーキの肉の代金は全て、ジョットが貰った報償金から出ていたりする。


「父さんも母さんもはしゃぎすぎじゃないか? 爵位って言っても一代限りの士爵だし、領地を貰ったわけでも軍に士官したわけでもない。結局のところ一般人と大差ないって」


 自分以上に喜び浮かれている両親の姿に呆れながらジョットが言うと、ローガンはそんなことはないとばかりに首を横に振る。


「それでも貴族には違いないだろ? それに貴族になったらお前の嫁になってくれる人も見つかるかもしれんだろ?」


「父さん……よくムムの前でそんなこと言えたね? ムム、すまない。父さんも悪気はないんだ」


「いえ、私は気にしていませんよ、旦那様」


 もうすでに若干酔いが回っているローガンの代わりにジョットがムムに謝罪すると、今度はジーナがステーキを飲み込んでから口を開いた。


「でもお父さんの言うこともそんなに間違っていないじゃん? 確かにムムさんって美人だしお兄ちゃん好みのエロい身体をしてるけどさ、お嫁さんとなったら話も違ってくるでしょ? 子供を作れるんだったら「作れますよ?」……ハイ?」


 ジーナの言葉の途中でムムが静かに言うと、彼女の言葉はジーナだけでなく食卓にいる全員を沈黙させた。


「私は脳髄以外は全て生体パーツを使って製造されていますので、一部を除いて人間と同じ身体構造をしています。ですから旦那様が望めば私は旦那様の子供を産むこともできます。それも私の役割の一つですので」


『『……………』』


 ムムの説明に祭夏一家四人は数秒間言葉を失い、やがてクローエが真剣な表情となってムムの手を取った。


「ムムさん。こんな無愛想な馬鹿息子だけど、どうかよろしくお願いしますね」


「はい。おまかせください」


「アンドロイドがお義姉ちゃんかー。でも変な人間な女よりかはマシかな?」


 クローエとジーナがムムをジョットの嫁認定している隣では、いつの間にか酔いもすっかり冷めてしまったローガンが真剣な視線を実の息子に向けていた。


「ジョット……。お前とムムさん、今日から家じゃなくてホテルで泊まれ。幸い金はまだ沢山あるんだからな。いくら息子でも……いや、息子だからこそ……その、何だ? 変な姿を見たり変な声を聞きたくないんだよ。分かるだろ?」


「いや、何を言っているんだよアンタらは!?」




 食事が終わってからしばらくした後、ジョットとムムは彼の家ではなく、同じコロニーにあるホテルの一室にいた。


「信じられない……! あの馬鹿両親と馬鹿妹、本当に俺達を追い出しやがった……!」


 ジョットの家族が彼とムムを自宅から追い出し、ホテルに泊まるように仕向けたのは、要するにムムが自分の所有するアンドロイドであることをいいことにジョットが手を出すと思ったからだろう。ここまであからさまに信用されてないとなると流石に腹も立ってくる。


「それで旦那様? 早速ここで行いますか?」


「えっ!?」


 自分を毛程も信用していない家族に内心苛立っていたジョットだったが、ムムの言葉に怒りなど瞬時に忘れて彼女の方を見る。


「こ、ここで行うって、何を? ナニを?」


「旦那様が思っている通りのことです。初めて会った時も言いましたが私は多目的アンドロイド。その『目的』には性的に旦那様を癒す『慰安』も含まれています。……実際、旦那様は初めて会った時から今まで二百十二回も私の胸部に視線を向けていましたよね?」


 動揺するジョットにムムはそう言うと自分の胸元を開き、それによって白の下着に包まれた彼女の形も良く巨大な砲弾の様な乳房が露わになる。


「………!? い、いや……俺はそんな事は……!?」


 口で否定しながらムムの乳房を凝視するジョット。すると彼女は残念そうでも嬉しそうでもない、主人と同じ無表情で乳房を隠そうともせずに頷く。


「分かりました。ではそのままお聞きください。旦那様には近日中に、できれば明日にでもある惑星に向かって下さい。そこで旦那様専用の『アレス・マキナ』が製造されています」


「ああ……分かった……って! ええっ!?」


 ムムの乳房に視線を釘付けになったまま生返事をしていたジョットであったが、彼女の言葉の意味を理解すると思わず驚きの声を上げた。

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