一章 アレス・マキナ新造
第5話
ジョットがムムに向かうように言われたのは、大清光帝国に所属している多くの兵器メーカーの施設が集まっている惑星だった。
惑星にある建造物のほとんどは、兵器を作る工場か社員用の社宅、あるいは来客用の宿泊施設のどれかであり、この惑星一つが巨大な兵器工場のようなものと言っても過言ではない。惑星には常に、兵器の購入が目的の軍人や貴族が大勢訪れているせいか街並みは非常に栄えていて、ジョットは自分が暮らすコロニーとは比べ物にならない惑星の街並みに圧倒されていた。
「これは……凄いな」
「うん! 本当に凄いって!」
ジョットの言葉に元気よく答えたのはジーナであった。
現在ジョット達がいるのは来客用の宿泊施設が集まった宿泊エリア。そこにはこの惑星にある様々な兵器メーカーの「商品」の説明画像を映す巨大モニターが無数にあって、ジーナはモニターの映像を見て瞳を輝かせる。
「凄い凄い! 超メジャーなメーカーのミレス・マキナだけじゃなく、技術力は高いけど個人注文しか受けていないからマイナーなメーカーのミレス・マキナまで紹介されている!」
「ジーナ様はミレス・マキナに興味がおありなのですね」
巨大モニターが映す映像でジーナが熱心に見ているのは全てミレス・マキナに関するもので、ムムがそこに触れるとジーナは大きく頷いた。
「もちろん! ミレス・マキナだけじゃなくてワクス・マキナ、そしてアレス・マキナにも興味があるよ! 自分の意識をあの巨大なロボットの体に移して自分が強い存在になる感覚が好きなの!」
ジーナは物心がついた頃からミレス・マキナやワクス・マキナに強い興味を持っていて、たまにジョットやローガンの機体を自分で操縦してジャンク品や鉱物を採取する仕事を手伝うことがある。だから数日前、ジョットとムムが新しい機体を受け取るためにこの惑星に行くと家族に言った時、こうして強引に着いてきたのであった。
「あ〜あ、お兄ちゃんはいいな〜。新型の、それもアレス・マキナが貰えるなんて」
「……うん。そうだな」
ジョットとムムがこの惑星に来た理由を思い出してジーナが心から羨ましそうに言うと、ジョットも少し嬉しそうに答えた。
アレス・マキナはミレス・マキナの上位機種なのだが、アレス・マキナの価値は単なる高性能な兵器ではない。
アレス・マキナ。ミレス・マキナ。ワクス・マキナ。
これらはパイロットの精神波をエネルギーに変換するジェネレーターを搭載していて、このジェネレーターは大清光帝国直属の技術局でしか製造出来ず、内部は解析不可能なブラックボックスとなっている。だから一般の会社はまず大清光帝国からジェネレーターを購入してからミレス・マキナとワクス・マキナを製造する。
しかしアレス・マキナに搭載されているジェネレーターは特殊で、ミレス・マキナとワクス・マキナに使われているのより遥かに高出力な上に、中には「特別な効果」を発揮する物もあった。そのためアレス・マキナのジェネレーターは一般には販売されておらず、アレス・マキナを製造できるのは国から許可を与えられた一部の貴族と軍人だけなのである。
この様な理由からアレス・マキナは単なる高性能な兵器ではなく国から称賛される英雄が乗る機体とされており、ジーナが羨ましがりジョットが嬉しそうにするのも当然のことと言えた。
「でもどうして国はわざわざ俺にアレス・マキナを作ってくれるんだ?」
一ヶ月前の単機でゲムマを撃退したジョットの功績は確かに大きいが、それでもいきなりアレス・マキナを製造してくれることに彼が疑問を感じていると、ムムがその疑問に答える。
「旦那様が一ヶ月前にゲムマを撃退したのは同盟国の人々を招いた式典の最中だと聞きました。当然同盟国の人々も旦那様が一人で撃退したお姿を目撃しており、そんな人々がもし旦那様がいつものボロボロなミレス・マキナに乗り続けているのを見たら『大清光帝国はろくに報酬を支払わない国である』と思われるかもしれません。それを防ぐための今回のアレス・マキナです」
「そういうことか……」
「なるほどねー」
ムムの説明にジョットとジーナの兄妹は揃って納得した顔となる。
確かに寄せ集めのパーツで作ったジョットのミレス・マキナの外見はスクラップかと思うくらいボロボロで、あれに乗り続けていたらムムが言った通りになるかもしれない。だから大清光帝国はそうなる前に報酬金とは別にアレス・マキナを製造してジョットに渡すことにしたようである。
しかしまさか自作のボロボロの機体に乗り続けたことが、こんな結果に繋がるとは予想外なジョットであった。
「それではそろそろ旦那様の機体を作っている工場へ行きましょうか」
「そう言えばお兄ちゃんの機体を作っているのってどこのメーカーなの?」
「黒翼・ヘビー・マシーナリーです」
「黒翼・ヘビー・マシーナリー!?」
ジーナに聞かれたムムがジョットのアレス・マキナを製造している兵器メーカーの名前を言うと、それを聞いたジーナが驚いた顔となる。
「黒翼・ヘビー・マシーナリー? ジーナ、知っているのか?」
「えっ、うん……。黒翼・ヘビー・マシーナリーは技術力は高いんだけどクセが強い製品を作ることである意味有名なメーカーなの。超高出力なビームキャノンに変形するランスとか攻撃した瞬間に爆発を起こして攻撃力を増すハンマーとか、他の兵器メーカーだったら作ろうとしない製品ばかり作って、一部の物好きな貴族からは人気があるらしいけど……」
ジョットが自分の機体を製造している兵器メーカーについてジーナに聞くと、彼女の言葉を聞いたムムが首を横に振る。
「本当に良いものは中々理解されないものです。黒翼・ヘビー・マシーナリーの製品は宇宙で最高品質のものばかりですのでご安心ください。ちなみに私も黒翼・ヘビー・マシーナリーの製品です」
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