第538話

 ローラと出会ってから三日後。ジョット達はローラ達と一緒に隣街にある領主の館へと行き、そこでネロチェイン男爵と依頼の話をすることになったのだが……。


「近々魔族と大きな戦いが起こる。その戦力としてお前達を使ってやろう」


 というネロチェイン男爵の第一声を聞いて、ジョット達はネロチェイン男爵の依頼を聞こうとしたのは失敗だったと思うのであった。


 ネロチェイン男爵は高級な衣服と装飾品を身につけた四十代くらい紳士であるのだが、自分が招き入れたはずのジョット達を見る目はあまりにも冷たく、ジョットはその目に覚えがあった。


 貴族になる前の辺境コロニー群の労働者であった自分の雇い主。真道学園で自分を成り上がりの貴族だと内心で見下してくる貴族の子弟。


 要するに自分より立場が下の者は人間ではなく喋る動物か道具だと思っている人間。


 ローラも物語から出てきたような典型的な姫騎士であったのだが、その父親であるネロチェイン男爵もまた物語から出てきたような典型的な貴族のようであった。


『『………』』


 ネロチェイン男爵の言葉を聞いてマーシャとセレディスは無言だが、その目には確かな怒りの炎が宿っていた。二人ともリューホウ王国の高位貴族の令嬢で、これまで多くの貴族と会ってきた経験からネロチェイン男爵が自分達を人間扱いしていないのを察して内心で怒っているのだろう。


 同じく貴族の令嬢で、他人の気持ちを完全に読み取る超能力じみた洞察力を持ったカーリーもネロチェイン男爵の考えを理解しているのだが、先に怒っているマーシャとセレディスを見て怒る気を無くしたのか苦笑いを浮かべている。


「傭兵として男爵様の軍に加わり、魔族と戦えと?」


 これ以上ネロチェイン男爵に話させたらマーシャとセレディスの怒りが更に増すと考えたジョットが先に話すと、ネロチェイン男爵が頷き答える。


「そうだ。我々ネロチェイン男爵家はラックーテン辺境伯家と共に魔族と戦いを挑むつもりなのだが、今回はどうやら魔族の数が多いようらしいのでな。お前達のような傭兵でも多少の埋め合わせになると思って雇うことにした。安心しろ。魔物退治をするよりもマシな額の給金は与えてやる」


『『………』』


 どこまでも上から目線なネロチェイン男爵の言葉に、やはりと言うかマーシャとセレディスの怒りが増し、マリーとカーリーは呆れたようにこっそりとため息を吐き、ジョットはマーシャとセレディスの怒りが爆発しないように心の中で祈った。そしてそんなジョットの祈りが通じたのか、ネロチェイン男爵は言いたいことを全て言ったのか会話を打ち切った。


「話は以上だ。詳しい契約についてはそこにいるローラから聞け。私はこれから妻と娘と出かける予定があるのでな」


「……」


 ネロチェイン男爵はそう言うと、今まで無言で部屋の隅にいたローラを一度だけ視線を向けて部屋を出ていった。そんなネロチェイン男爵の態度にローラは少しだけ寂しそうな表情を浮かべるのだが、すぐに表情を凛々しいものに変えるとジョット達に話しかける。


「お父様……いや、ネロチェイン男爵が失礼した。それでは契約について詳しい話をしていこうと思う」


「……? ええ、そうですね」


 今さっきネロチェイン男爵は妻と娘と出かける予定がある言って部屋を出て行ったのに、彼の娘であるローラは部屋に残って詳しい契約の話をしようといってきた。そのことを変に思いながらもジョットはローラの話を聞くのであった。

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