第483話

「そうか……。俺が寝ている間にそんなことがあったのか……」


 魅火鎚を操るジョットがギラーレ同盟の戦艦三隻を行動不能にした後、目を覚ましたベックマンがサンダースからジョットの戦いを聞いてそう呟いた。


「だけどそんなことをして何か問題はなかったのか?」


「それは大丈夫なんじゃねぇの? 一応相手は一方的に宣戦布告をしてきた上に独断で領土侵犯してきた敵国だし、行動不能にした後は戦艦の乗組員の救助活動だってしたし、特に問題はないだろうよ。……むしろ問題があるのはお前だ、ベックマン。あれから三日も眠っていたけど身体は大丈夫なんだろうな?」


 サンダースはベックマンの言葉に返事をすると彼に疑いの目を向けた。


 ジョットがギラーレ同盟の戦艦と戦った日からすでに三日が経っており、あの日に9543番からの話を聞いて気絶したベックマンは今日目覚めるまでずっと眠っていて、そんな彼をサンダースが心配するのは無理もないことであった。


「ああ……。三日間眠れたお陰でようやく心身共に落ち着いた気がするよ。……それに今は起きていないと別の意味で心労が重なりそうだからな」


 ベックマンはサンダースにそう言うと、自分達が今いる黒翼・ヘビー・マシーナリーの工場に視線を向ける。今現在の黒翼・ヘビー・マシーナリーの工場は、異様なまでの熱気に包まれていた。


「ちょっと何よ、コレ? 予定にはない兵器が複数追加予定になっているじゃない? どれも浪漫があるいい兵器だけど……この追加予定にしている兵器の詳しいデータ、全部持ってきて!」


「言われると思ってすでに用意しています!」


「……よし。この部分の接続は完了。続けて正常に起動するかのシミュレーションを始めるよ」


「任せてください、Dr.スパイクヘッド! 準備はすでに完了しています!」


「む、むむむ……? こ、こ、ここの装甲……一部の純度と強度が予定、値になって、いないよ? や、やり直し……」


「すみません、プロフェッサーRR! 今すぐ作り直します!」


「ふむ。機体制御プログラムは正常に構築できているようだね。後はジョット君の最近の身体データに調整するだけだね」


「はい! ジョットの若旦那には今最新の身体データ採集に協力してもらっているので、もう少し待ってください!」


「オイオイオイオイ!? スラスターのエネルギー収束速度が予定よりも0・0000000000000004秒も遅いじゃねぇか? それに武装の照準もいくつか0・005度から0・014度までのズレがあるし……テメェら、やる気あるのか!? 死ぬか? ここで俺に殺されるか? 分かってんのか、このジョットの坊主の新しい機体は俺達黒翼・ヘビー・マシーナリーの技術の集大成、最高傑作になる予定なんだぞ! まぁ、一月もしたらそれ以上に高性能でイカした機体と兵器を設計してやるけどな。とにかく! この機体に一切の手抜かりがあっちゃいけねぇんだよ! 分かったらさっさと完璧に仕上げろ! じゃなかったら仕事が終わった後、特殊ゴム弾を十億発ブチ込んで殺すぞ!?」


「了解です、ガンマニア教授! 今すぐに!」


「う〜む? やはりジェネレーターの調律を行ったせいか、機体と一体化した際の感覚に誤差が生じているの? まるで絹糸の衣で全身を覆っているようじゃわい。これは急いで改善せねば」


「そこまで分かるのですか? それはもうほとんど誤差のような……いえ! 急いで改善しましょう!」


 ベックマンとサンダースの視線の先ではマリー、そしてDr.スパイクヘッドを始めとする黒翼・ヘビー・マシーナリーの五大博士が、大勢の技術者と一緒にジョットの新しい機体を急ぎ完成させようと作業を進めていた。この時の彼らの表情は真剣そのものであったが、同時にどこか楽しそうでもあった。


「あの様子だと、またとんでもないことに超兵器を作られそうだから監視はしないとな。……だけど、何で急にあそこまで急いでジョットの機体を完成させようとしているんだ?」


「あ〜……。それは、あれだ? ギラーレ同盟の戦艦をぶった斬った時のジョットの魅火鎚の操縦に影響を受けたらしいぜ?」


 工場の様子を見ながら首を傾げるベックマンの言葉にサンダースが答える。


 ギラーレ同盟の戦艦三隻と戦った時の、ジョットが操った魅火鎚の動き。それは理論上は可能だが、実際に出来る者はいないと思われていた動きであった。


 黒翼・ヘビー・マシーナリーの兵器はどれの性能は良いのだがクセが強すぎて、その中でも人型に変型する巨大戦艦である魅火鎚は特にクセが強いキワモノの極みと言うべき存在である。それをあそこまで使いこなしたジョットの動きを見て何も感じない技術者なんているはずもなく、結果としてジョットの新しい機体を予定よりも更に強力なものにして完成させようという気持ちに火が入ったのである。

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