第456話

 ジョットとマリーが9543番が作った強化型ゲムマを秘密裏に惑星ファイトスに持ち込んだ翌日。ジョット達はそれぞれの機体と精神を一体化させた状態で、黒翼・ヘビー・マシーナリーの所有地である新型兵器の試験場である砂漠に来ていた。


 砂漠にいるのはジョットとジーナ、マーシャとセレディス、シレイアとカーリーの六人であった。


「それにしても凄いわね? もう完全に直っている……」


「確かに。この短時間であれだけの損傷を直すとはな。黒翼・ヘビー・マシーナリー……クセが強いところがなければ一流なのだがな……」


「黒翼・ヘビー・マシーナリーは一流の兵器メーカーだから。クセが強い、じゃなくて個性的なだけでそこもチャームポイントだから」


 自分達のミレス・マキナの手足を動かし、機体に何の問題もないことを確認したマーシャとセレディスがそう言うと、黒翼・ヘビー・マシーナリーの研究室で二人の会話を聞いていたマリーが通信を送る。


「そんなに機体のダメージは酷かったのか?」


 ジョットが質問をするとマーシャとセレディスは同時に頷く。二人のミレス・マキナは8789番のゲムマ・ランザと戦った時、機体に振動エネルギーの伝達を受けて内部から破壊されたのだが、外部からはどれだけのダメージを受けたのか判断がつかなかったのだ。


「ええ。あのゲムマ・ランザの振動エネルギーで機体の精密機器はもちろんダメになって、それどころかフレームにさえヒビが入っていたわ」


「正直なところ、修理するよりも新しい機体を用意した方が速いと思っていたのだが、まさか完全に直してくれるとはな」


「当然でしょう?」


 マーシャとセレディスの言葉にマリーは自慢気な顔で答える。


「全く同じで新しい機体を用意するのは簡単だけど、長い間同じ機体を使ってからいきなり別の機体を使うと身体の感覚に若干のズレが生じるわ。これからする『実験』はある意味、実戦と同じなんだから不安要素は少しでもない方がいいでしょう?」


「なるほど」


 マリーがそう言うとセレディスは納得して頷き、ジョットを含めた他の者達も一つ頷いた後、前方にある巨大なコンテナに視線を向ける。あのコンテナの中には9543番が作った強化型ゲムマがあり、今回の実験とは実際に強化型ゲムマと戦うことでその能力を体感することであった。


「あの中に9543番様のゲムマがあるのですね?」


「それでジョット君? 9543番の強化型ゲムマってどんな姿なの?」


 シレイアがコンテナを興味深そうに見ながら呟き、カーリーがジョットに聞くと、彼は少し考えてから答える。


「そうだな……。とにかく綺麗なゲムマだったけど、あれで戦えるのかと思ったな」


「? それって一体どういうこと?」


「まあ、見たらすぐに分かるよ。……マリー、コンテナを開いてくれ」


「了解」


 ジョットがカーリーに答えてからマリーに頼むと、前方にあるコンテナが展開して中にある強化型ゲムマの姿が現れる。


 9543番の強化型ゲムマは、両腕が鋭い剣で背中に二対の翼を生やした人型で、ガラスや水晶のような透明感のある鉱石によって身体を構成されていた。周囲の光を反射して光り輝いているような姿は確かにジョットが言ったように綺麗ではあったが、同時に全体的に華奢な印象も感じられて、戦うどころか高速で動いただけでも壊れてしまいそうに見えた。


「……フフッ。ジョット君? そんなに心配だったら実際に戦ってみるかい?」


 9543番の強化型ゲムマを見てマーシャとセレディス、シレイアとカーリーが先程ジョットが言った言葉に納得していると、いつの間にか強化型ゲムマの上空に現れた9543番が話しかけてきた。


「8789番程じゃないけど、ワタシも自分が作ったゲムマの力を試してみたくてワクワクしていたんだよね。……それじゃあ、せっかくの戦う機会だ。楽しもうじゃないか」


 9543番の言葉に応じるように彼女が作った強化型ゲムマは、両腕の剣をジョット達に向けて構えるのであった。

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