第469話

 マーシャとセレディスのジェネレーターの購入、そしてジョット達全員のジェネレーターの調律には十日間の日時を必要とした。


 マーシャとセレディスのジェネレーター購入の手続きに三日。


 ジェネレーターの調律のために、ジョット達の脳波を詳しく検査するのに二日。


 検査した脳波のデータを元にジェネレーターの調整に三日。


 実際にジェネレーターを起動させて誤作動がないかを確認して微調整するのに二日。


 ジェネレーターの調律を行えるのは大清光帝国直属の技術局の技術者だけなのだが、普段からジェネレーターの製造や研究で多忙を極めている技術局の技術者を大勢拘束するのは非常に難しく、本来であればジェネレーターの調律を行う技術者は二、三人。作業期間も一つのジェネレーターにたいして七日どころかその倍、または三倍の日数を必要としていた。


 だが今回は十数人の技術者が働いてジョット、マーシャ、セレディス、シレイアの四人分のジェネレーターの調律を短期間で完了させてくれたのである。これには皇族のシレイアが手続きをしたこともあるが、ジョット達が機体の強化を考えた原因、8789番の強化型ゲムマの存在を重く見た大清光帝国の上層部からの働きもあったりする。


 だがそんな事情はともかく、ジェネレーターの調律を終えてこれで自分もジョット達の新しい機体の開発に参加できると喜んだマリーは早速、ジョット達と一緒に黒翼・ヘビー・マシーナリーがある惑星ファイトスに帰るのであった。


「思ったより早く調律が終わったわね。機体の方もDr.スパイクヘッド達が順調に作っているみたいだから、早く帰らないと。皆の新しい機体の製造に私だけ参加できないだなんて嫌だもん」


「……でも、今回はお父様が私を引き止めようとしなかったのが気になります」


 上機嫌で魅火鎚を操縦しながらマリーが言うと、シレイアが首を傾げて呟いた。


 ジョット達が蒼海珠に来た時はシレイア目当てで待ち構えていた皇帝であったが、ジェネレーターの調律を終えて惑星ファイトスに帰る時は大量のメールを送るだけでシレイアを引き止めようとしなかったのだ。てっきり何らかの理由をつけて自分を引き止めようとすると思っていたシレイアは、皇帝のらしくない行動に疑問を抱いていたのだった。


「そう言えば、お父様からのメールに大事な会議が急に入ったとか書いてあったような……。何もなければいいのですが……」


「皇帝陛下がシレイアよりも優先する会議か……想像がつかないな? ……あっ。メールと言えば俺の方にも『アイツ』からメールが来ていたんだった。一応ベックマンにも連絡を入れておくか」


 シレイアの言葉を聞いてジョットは自分の所に来たメールのことを思い出し、その内容をベックマンに連絡するのだった。



「ベックマン様。ジョット様からのメールが来ました」


「ヒィッ!?」


 黒翼・ヘビー・マシーナリーの工場で作業をしていたベックマンは、ルヴィアからの言葉に思わず情けない悲鳴を上げた。


 9543番から不幸が訪れるという発言を聞いた日以来、ベックマンはいつ不幸が訪れるのか戦々恐々としており、ジョットからの連絡を不幸の始まりと思ったようである。


「ベックマン様?」


「い、いえ、失礼。何でもありません。何でもありませんよ? それでジョットはなんてメールを寄越したんですか?」


「はい。どうやら真道学園にいるサンダース様が突然学園に休学届けを出して、こちらへ向かって来ているようなのです」


「……………ハイ?」


 ジョットから不幸の報せと聞いて身構えていたベックマンだったが、ルヴィアからメールの内容を聞いて瞬間、拍子抜けしたという表情となって呆けた声を出した。


 サンダースが真道学園に休学届けを出してこちらへ向かって来ている理由は分かる。十中八九、今ここにいるルヴィアが目的だろう。


 そしてサンダースがここに来て9543番に接触して、一般人には極秘扱いのゲムマの真実に触れるかもしれない可能性はできるだけ避けたいが、それはルヴィアに協力してもらって上手くサンダースを誘導すれば対処はできる。


 ジョットからのメールが想像していたよりもずっと軽い内容であったことにベックマンは胸を撫で下ろして安堵するのだが、次の瞬間、彼の携帯端末の呼び出し音が鳴り響いた。


「ん? 今度は誰だ?」


《ベックマン君!》


 安堵して警戒心を解いたベックマンが携帯端末を起動させると、携帯端末から大清光帝国の高官の大声が聞こえてきた。


「高官殿? 一体どうしたんですか?」


《非常事態だ! あの馬鹿者逹……ギラーレ同盟が大清光帝国に宣戦布告をしてきたのだ!》


「…………………………!?」


 高官からの衝撃的な報告。それを聞いて精神のガードを下げてしまっていたベックマンは、白目を向いて立ったまま気絶してしまうのであった。

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