第546話

 ローラのアンスタンの真紅の鎧。その欠片は高速で回転しながらジョットのアンスタンに向かうと、彼のアンスタンの周囲を飛び回り逃げ場を塞いだ。


「これは凄いな。これだけ多くの刃と化した欠片を操れるだなんて」


「ふふっ、驚いたか? これこそが私の切り札。大型魔獣ですら全身を切り裂き出血死させた奥義だ」


 平原の中央でローラが放った無数の鎧の欠片に包囲された自分のアンスタンを見てジョットが呟くと、それを聞いた彼の隣に立つローラが自慢気に答える。確かにあの様に周囲を包囲されたら逃げ場はなく、時折鎧の欠片が地面や周囲の岩を切り裂いているのを見れば、一斉に全ての欠片の攻撃を受ければジョットのアンスタンではひとたまりもないことが分かり、確かに奥義と言うだけのことはあるだろう。


「こうなったらもう、出来るだけ長く戦ってデータ収集なんてできないよな。……それでいいか、シャルロット?」


《仕方がありませんね》


 ジョットがローラに聞こえない程度の声で通信機に話しかけると、魅火鎚から今もジョットとローラの模擬戦を観測していたシャルロットの声が聞こえてきた。そしてシャルロットからの許可を得たジョットがローラに攻撃される前に行動をしようとすると、それを察したローラが話しかけてきた。


「何をするつもりだ? お前の防御技術は確かに凄いようだが、もうお前には逃げ場はないぞ?」


「……いいや。そうでもない」


「何だと? どういう意味だ?」


 ローラはまるでこの状況を打破する手段を持っているようなジョットの言葉に反応するが、ジョットは自分のアンスタンと精神を一体化させると、アンスタンを上半身を後ろへと倒す。ジョットのアンスタンの周囲にはローラのアンスタンの鎧の欠片が飛び交っているが、上空だけは鎧の欠片が存在せず、アンスタンと一体化したジョットは障害物が存在しない空を見る。


 すると次の瞬間、ジョットのアンスタンはローラのアンスタンの遥か上空へと飛び上がっていた。


「………………………… え?」


『『……………!?』』


 ジョットのアンスタンが突然姿を消したかと思ったら空高くに飛んでいたという光景に、ローラだけでなく見学をしていた私設軍の隊員達は信じられないといった表情を浮かべる。この時ジョットのアンスタンの下半身、そこにある車輪は「光を放って変形をしていた」のだがローラと隊員達は気づいておらず、気づいていたのは本人であるジョットとマリー、マーシャ、セレディス、カーリーだけであった。


 驚きのあまりローラのアンスタンは凍りついたかのように動きが止まり、その隙を逃さずジョットのアンスタンは右手に持った槍を構える。


「これで……終わりだ!」


「っ! しまっ……!?」


 ジョットの攻撃に気づいたローラは咄嗟に防御を取ろうとしたがすでに遅く、ジョットのアンスタンの槍はローラのアンスタンの頭部を貫いた。


 アンスタンは核に強い衝撃を受けると兵器の姿を保てなくなるという特徴があり、その核は全て例外なく頭部の中央にある。ジョットの槍によって頭部を貫かれたローラのアンスタンは、核に強い衝撃を受けたことによって兵器の姿を保てなくなり、これにより模擬戦はジョットの勝利で終わったのであった。

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