第545話

「これは凄いですね」


 ジョットとローラの模擬戦を魅火鎚のブリッジから観測していたシャルロットが興味深そうにローラのアンスタンを見ながら呟く。ローラのアンスタンに興味を持っていたのはシャルロットだけでなく、同じ魅火鎚のブリッジにいる女性達全員もローラのアンスタンを注目しておりジーナが首を傾げる。


「それにしても何でローラさんのアンスタンだけあんなに巨大なの?」


「それは分かりませんが、ローラ様のアンスタンからはジョット様やカーリー様のアンスタンと同じく、他のアンスタンには無い特殊な波長が計測されています」


 ジーナの疑問に横にいるムムが計測器を操作しながら答える。


「アンスタンは操者の本能……精神波の波長によって外見や装備が変化する兵器です。そのため操者の精神波に他の精神波と違った場合、他のアンスタンにはない『特殊能力』が現れるのではないでしょうか?」


 ムムの予想を聞いてジーナは、ジョットとカーリーのアンスタンにだけ現れた特殊能力について思い出す。


「アンスタンの特殊能力ってお兄ちゃんの『車輪』やカーリーさんの『鎧』みたいな能力で、ローラさんの場合はあの巨大な機体が特殊能力ってこと? ……でもお兄ちゃんやカーリーさんと同じように特殊能力を使えたってことは、ローラさんもトリックスターを発現できる人なの?」


 ジョットとカーリーの共通点はトリックスターを発現できる機士であるということ。その二人のアンスタンにしか現れなかった特殊能力をローラのアンスタンも使えたということは、ローラもアレス・マキナに乗ればトリックスターを発現できる可能性があるのではとジーナが言うと、シャルロットが頷く。


「その可能性はありますね。ちょうどいい機会です。この模擬戦でローラさん本人と彼女のアンスタンのデータをとらせてもらいましょう。……ジョットさん、聞こえていますよね? できるだけローラさんと長く戦って、できるだけ詳細なデータをとってください」


 人間の精神波の研究は未だにどこの国でもほとんど進んでおらず、トリックスターを発現できる条件も解明されていない。もしローラがトリックスターを発現できる精神波の持ち主であるのなら、ジョットとローラの模擬戦は精神波の研究に大きく役立つと判断したシャルロットは、アザイアの大地にいるジョットに指示を出すのであった。



(了解。……って、言いたいところだけど、無茶苦茶言ってくれるよな? こんな巨大なアンスタンと長く戦えだなんて、できるわけないだろうが)


 耳元にある通信機からシャルロットの指示を聞いたジョットはローラと戦いながら心の中で呟くが、彼の心の声を聞いた者がいたらその者は絶対に嘘だと言うだろう。


「くっ! この! ちょこまかと!」


『『……………!?』』


 ローラのアンスタンは先程から何度も両腕を振るい、無数の棘を伸ばして攻撃しているのだが、ジョットのアンスタンはその攻撃の起動を全て見切っていた。しかも人や動物の脚とは違って小回りの聞かない車の脚部なのに、直進に後退にドリフトと様々な走り方でローラのアンスタンの攻撃を避けていて、自分からはまだ一度も反撃していないがもう十分以上ローラの連続攻撃を避け続けているジョットの技量に私設軍の隊員達は空いた口が塞がらなかった。


「……なるほど。このままじゃらちが開かないと言うことか。……仕方がない。模擬戦でここまでするつもりはなかったが、私の切り札を見せてやろう」


 ローラがそう言うと彼女のアンスタンの真紅の鎧、その表面が剥がれて真紅の鎧の欠片がローラのアンスタンの周囲に漂う。そして無数の鎧の欠片は高速で回転を始めるとジョットのアンスタンに襲いかかるのであった。

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