第544話

「………え? 何アレ?」


 ジョットとローラのやり取りを見ていて嫉妬に燃えていたマリーとマーシャ、セレディスとカーリーの四人であったが、ローラのアンスタンを見た瞬間に驚きのあまり嫉妬していたことも忘れ、マリーが思わず呟いた。


 平原の中央に立つローラのアンスタンを見て最初に注目されたのは、その巨大さだった。ローラのアンスタンは正面に立つジョットのアンスタンの二倍以上、下手をすれば三倍の大きさでジョットのアンスタンと比べることでその巨大さが際立っている。


 そしてその外見は全身に鎧を身に纏った騎士という点ではジョットや他の操者のアンスタンに似ているのだが、その全身を覆っている鎧は気品が感じられる装飾が施された真紅の鎧で、あそこまで美しいアンスタンはジョット達は今まで見たことがなかった。しかし両腕の肩から下のだけは全身の真紅で流麗な鎧とは違い、どこか毒々しさが感じられる暗い緑色な上に無数の棘が生えている、敵を傷つけることだけしか考えていないような造形をしていた。


 ジョット達もアザイアに来てからの一ヶ月の調査で様々なアンスタンを見てきたつもりだったがそれでもローラのアンスタンは別格で、驚くジョット達の様子を見てローラだけでなくネロチェイン男爵の私設軍の隊員達はどこか自慢するような笑みを浮かべる。どうやら初めてローラのアンスタンを見た者がこうして驚くのはいつものことらしい。


「少しは驚いてくれたか? 私のアンスタンは見ての通り少し特殊なんだ」


「……そのようですね」


 ローラの言葉にジョットがそう答えると、後ろの方からマリー達が「ちょっとどころではない」とか「質量保存の法則とかどうなっているの?」とか呟いているのが聞こえてきた。そうしているとローラのアンスタンが自分の右腕をジョットのアンスタンへと向ける。


「では始めるが……すぐに終わってくれるなよ?」


「……!?」


 ローラがそう呟くのと同時に、ジョットは本能で強い危険が迫って来ることを感じて反射的に自分のアンスタンを後退させた。すると次の瞬間、ジョットのアンスタンがいた場所に一本の鋭い槍が伸びてきて地面を貫いた。


「ほう? 避けたか?」


 地面を貫いた槍はローラのアンスタンの右手の人差し指に生えていた棘であった。ローラが自分の攻撃を避けたジョットを見て興味深そうに呟くと、ローラのアンスタンの伸びていた棘はすぐさま元の長さへと戻っていく。


「伸縮自在の槍……それが何本も」


 人差し指の棘が伸びたということは、あの両腕にある他の無数の棘も全て伸びて武器になるとジョットが予想すると、ローラはそれに頷き答える。


「そういうことだ。これならばこの巨体でも何の問題もなく自分より小さな敵に攻撃できる。そして私の攻撃はまだ終わっていないぞ!」


 ローラの言葉に応じて彼女のアンスタンは両腕を何度も素早い動きで前方へ突き出し、その度に両腕にある棘がジョットのアンスタンに向かって伸びていき、その攻撃の激しさはまさに刃の豪雨と言った様子であった。このローラの連続攻撃の激しさをよく知っている私設軍の隊員達は、ジョットのアンスタンがどれだけ素早く動けたとしても、今まで彼女が倒してきた敵と同じ様にやがて逃げきれなくなって何もできないまま倒されると思っていた。しかし……。


「なっ!? これは……!」


『『……………!?』』


 ジョットのアンスタンは地面を高速で縦横無尽に走り回りローラの連続攻撃を全て回避して、それを見たローラと隊員達は驚きのあまり言葉を失うのであった。






〜後書き〜

 ローラのアンスタンは「薔薇」と、大昔の機動戦士のプラモデルを題材にした漫画に出てきた最強の機体、◯ンキラーをモデルにしました。

 ローラのアンスタンが巨大なのは彼女の精神波が特殊でそれが「機体を大きくする」という結果に出たからで、もし彼女がアレス・マキナに乗ったらトリックスターを発現させることが可能です。

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