第543話
「それでは準備はいいか?」
「はい。俺は大丈夫です。ですから始めましょう。……今すぐに!」
模擬戦の準備ができたかと聞いてくるローラにジョットは即座に答える。マリー達四人の嫉妬の視線に耐えきれず、一刻も早く模擬戦をしたいと言うジョットにローラは首を傾げた。
「何だ? さっきから無表情だから乗り気じゃないと思っていたのに随分とやる気じゃないか? まあ、いい。そっちの方が私としてもやる気が出る。……ちなみに私の好きなタイプは私よりも強い殿方だからな?」
自分の予想に反してジョットにやる気があると判断したローラは、イタズラっぽい笑みを浮かべて彼にそう言う。
ちなみに自分より強い男が好きだという発言は一応はローラの本心ではあるのだが、彼女はこれをネロチェイン男爵家の私設軍の男達のやる気を出させるための方便としてよく使っており、今回もジョットのやる気を更に引き出すために言っただけであった。……しかしジョット達に限り、このローラの発言は彼女が予想とは別の効果を発揮したのであった。
「……!」
『『…………!?』』
ローラの突然の発言に本能で危険を察したジョットは身体を硬直させて、マリーとマーシャ、セレディスとカーリーの四人は「やっぱりいつの間にかフラグを立てていたな、
「? どうした? 顔色がまた悪くなったみたいだが?」
「……いえ、大丈夫です。模擬戦を始めましょう。……今はそれだけは俺の癒しになる」
ジョットの異変に気づいたローラが話しかけるが、彼はそれに首を横に振って答える。
恐らくジョットは今日の夜にでもマリー、マーシャ、セレディス、カーリーの四人からローラについて質問責めにされた挙句、子作りとローラに手を出す気力を削ぐ二つの意味を兼ねて昨日のように限界まで搾り取られるのだろう。それが予想できているため彼は、今だけは模擬戦に集中して過酷な未来を忘れようと思ったのだった。
「模擬戦が、癒し? よく分からないがジョットがそう言うなら始めようか」
「はい」
ローラとジョットはそう言うと、すでに平原の中央に置かれてある自分達のアンスタンの核へと精神波を送った。すると何も無かった平原の中央に、二つの巨大な影が現れる。
二つの巨大な影の一つはジョットのアンスタン。もう一つの巨大な影はローラのアンスタン。
(ジョットのアンスタン……戦うというより、自分や誰かを守るという意思が強く出ているようだな)
アンスタンというのは操る人間の本能が外見や武装に反映される兵器であるため、アンスタンを見ればその操者がどんな人物であるのか分かると言われている。そしてローラは下半身が四輪の車で上半身が鎧を纏った騎士というジョットのアンスタンを見て、彼がどういう人物なのかを分析していた。
ジョットのアンスタンは右手に槍を、左手には機体全体を隠せるくらいの大盾を持っており、これは戦う意志はあるがそれ以上に守りを優先する操者のアンスタンによく見られる武装の組み合わせだった。そして車や馬といった人間の足よりも速い速度を出せる脚部もまた、危険となれば速やかにその場から撤退するという意志を持った操者のアンスタンによく見られるものである。
(ここまで自分の身を守ろうとするアンスタンは初めて見た)
基本的にアンスタンの外見や武装に反映されるのは操者の戦闘本能だ。自らの意志で戦場に立った以上、敵と戦って勝つことこそが最も確実に自分の身を守る方法だと全ての生物が知っているからだ。
それなのにジョットのアンスタンの姿は、彼が戦うよりも防御を優先し続けた方が戦いに勝利できると信じていることを雄弁に語っていたのであった。
(面白い。そのアンスタンでどの様な戦いをするか見せてもらおうか?)
ローラはジョットのアンスタンを見て、彼の戦いに興味を覚え獰猛な笑みを浮かべる。それに対してジョットの方はと言うと……。
(……何と言うか、ローラのアンスタンってメチャクチャ強そうなんだけど? 俺、『アレ』に勝てるのかな?)
ジョットは自分のアンスタンの視点からローラのアンスタンを見て、額に一筋の汗を流していた。
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