第420話

 軍用コロニーの内部には惑星上での戦闘を想定したミレス・マキナ用の模擬戦場がいくつもあり、数日後に行われるトライアルはこのコロニー内での模擬戦場で行われる予定である。


 今日ジョットがアレス・ランザを模擬戦場へ送ったのはトライアルの会場を下見するためで、周囲を見ればアレス・ランザ以外にも数機、トライアルに参加するものと思われるミレス・マキナが会場の下見をしており、その中にはミレス・コルヴォカッチャトーレの姿もあった。


「あれはシャルロットの……。やっぱり速いな」


 模擬戦場の上を飛ぶコルヴォカッチャトーレは、戦闘機状態でもないのに他のトライアル参加予定のミレス・マキナよりも速く、機体の動きも安定しているように見えた。他のミレス・マキナも完成度は高いように見えるし、これは同じ真道学園の生徒としての贔屓が入っているかもしれないと思うが、それでもジョットはコルヴォカッチャトーレがトライアルに合格して正規軍に採用されてほしいと思った。


 そんなことをジョットが思っていたその時、模擬戦場の上空に新たなミレス・マキナが現れる。


 新たに現れたミレス・マキナは速度を上げるとコルヴォカッチャトーレに接近してそのまま抜き去り、ジョットは新たなミレス・マキナの動きに思わず驚きの声を上げる。


「速い……! 変形していないとは言え、カッチャトーレを抜き去るだなんて」


「中々のものだろう? このミレス・アクセルカイザー加速の皇帝は?」


「え?」


 ジョットが新たに現れたミレス・マキナの速度に驚いていると、そのミレス・マキナがアレス・ランザに近づいてきて、操縦している機士がジョットに通信を送ってきた。


「貴方は?」


「おっと、これは失礼したね。ボクの名前は虹橋・エラン。この機体、ミレス・アクセルカイザーの機士にして設計者さ」


 ジョットに聞かれてアレス・ランザに近づいてきた機体、ミレス・アクセルカイザーの機士のエランが自己紹介をして、エランの言動に合わせてアクセルカイザーが気取ったポーズを取る。


「虹橋・エラン? ミレス・アクセルカイザーの機士で設計者? ……って、そのエンブレムは?」


 エランの言動に困惑するジョットだったが、アクセルカイザーの両肩に描かれている銃弾のエンブレムに気づく。


「その機体は確か、シルバーブレッド・ファクトリーの……?」


「その通り! このミレス・アクセルカイザーは今回のトライアルで採用確実とされているシルバーブレッド・ファクトリーの最高傑作なのさ!」


 ジョットの言葉にエランがそう答えると、アクセルカイザーはまたしてもエランの言動に合わせて先程とは違う気取ったポーズを取った。


「そしてミレス・アクセルカイザーの設計をしたのはこのボク! 大清光帝国の次期主力機を設計したと言うだけでもボクの非凡さが分かるだろう?」


「……え? ええっと、まぁ、そうですね?」


 気取ったポーズを取りながら言うエランの言葉にジョットが一応頷いて見せると、それに気を良くしたエランが更に言葉を続ける。


「更に言えばボクの家は先祖代々続く由緒正しい貴族で伯爵! いくら君がアレス・マキナの機士とは言え、ボクの方が格上なのは明白! そう思うだろう?」


「はぁ……。それでつまり何を言いたいんですか?」


 何となくこれから面倒くさい展開になりそうな予感を感じながらジョットが言うと、ミレス・アクセルカイザーがアレス・ランザを指差す。


「祭夏・ジョット! 君に決闘を申し込む! 今回のトライアルでボクが君より好成績を出した暁にはシレイア様はボクに譲ってもらうぞ!」


 エランの宣戦布告を聞いてジョットは自分の予感が的中したのを理解したのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る