第486話

 大清光帝国の指揮官が惑星ファイトスにギラーレ同盟が襲撃してきたという報告を受ける数時間前、ジョット達は先日完成したばかりの新しい機体四機の試運転をしていた。


 黒翼・ヘビー・マシーナリーの総力を結集したジョット、マーシャ、セレディス、シレイアの新しい機体は外見は以前の機体によく似ていたが、中身は全くの別物であった。その時に使っていたのは蒼海珠で調律を行ったジェネレーターではなく試運転用のものであったが、それにも関わらず以前とは段違いの性能と武装の数々に、ジョット達は驚きを通り越して思わず感動した。


 しかしその試運転の最中にギラーレ同盟の軍隊が惑星ファイトスに襲撃してきたのである。


 亜空間を使った航行を終えたギラーレ同盟の戦艦は、現実空間に戻るとすぐに内部に格納していたミレス・マキナ部隊を発進させると、自らも惑星ファイトスの都市部に向けて高速移動を開始した。このギラーレ同盟の戦艦は全て遠隔操作されている無人機で、ギラーレ同盟はこれらの戦艦を超大型の質量ミサイルとして惑星ファイトスへの攻撃にしたのだった。


 惑星に、しかも軍事基地ですらない民間人が住まう都市部へ何十、何百という戦艦を特攻させるという非常識極まりないギラーレ同盟の行動に、惑星ファイトスの住民は怒りながらも自分達の星を守るために行動を開始した。惑星ファイトスに滞在しているパトロール隊だけでなく格兵器メーカーの防衛部隊もギラーレ同盟を撃退するべく出撃し、ジョット達も試運転中であった新型機で戦闘に参加する。


 ……だが、これこそがギラーレ同盟の狙いだったのである。


ジョット達が新しい機体で戦いに参加すると、ギラーレ同盟のミレス・マキナ部隊はジョット達に攻撃を集中させて、戦艦は都市部へ突撃する速度を上昇させたのだ。ジョット達は戦艦の突撃の阻止を優先させるしかなく、その結果としてギラーレ同盟のミレス・マキナ部隊に新しい機体四機全てを捕縛されてしまった。


 そう、ギラーレ同盟の狙いは最初からジョット達の新しい機体だったのだ。


 乗っているだけでいつ爆死するか分からない粗悪品の戦艦と、これもいつ爆発するか分からず性能がお粗末なミレス・マキナを使い捨ての道具にしてジョット達の隙を作って新しい機体を奪う。もし新しい機体が手に入らなければ都市部への攻撃のどさくさに、惑星ファイトスにある兵器メーカーの兵器や新技術を奪う。


 そんな星間国家共通法違反どころか非人道的と言っても過言ではない手段を取ったギラーレ同盟に、ジョット達はまんまと出し抜かれてしまったのである。



「……クソッ! ギラーレ同盟の盗人どもめ、やってくれる……!」


 自分の機体を捕獲され、機体との一体化を解除したセレディスが黒翼・ヘビー・マシーナリーの工場で怒りの声を上げる。


「マリー、ファイトスの状況はどうなっているんだ?」


 同じく機体との一体化を解除したジョットがマリーに聞くと、作業用のデスクに座っているマリーはデスクの機器と自分の携帯端末から情報を調べてから返事をする。


「……ファイトスの方は大丈夫。突撃をしようとしていた戦艦は全て破壊されたみたいだし、残った戦艦も撤退を開始しているみたいだよ。……やっぱり、私達の新しい機体だけが目当てだったみたいだね」


「そうですか……。ファイトスの皆様に被害が出なかったのは良かったのですが……」


「ええ。せっかくの私達の機体が、黒翼・ヘビー・マシーナリーの皆があんなに頑張って作ってくれた機体があんな奴らの手に……!」


 マリーの言葉を聞いてシレイアは惑星ファイトスに危害が出なかったことに安堵するのだが、マーシャはせっかくの機体がギラーレ同盟に奪われてしまったことに悔しげな表情を浮かべる。悔しい思いをしているのはジョット、セレディス、シレイアも同じで、マリーを初めとする黒翼・ヘビー・マシーナリーの技術者達はもっと悔しいだろうなとジョットは思っていたのだが……。


「フッフッフ……! やってくれたわね、ギラーレ同盟……。私達が必死に、魂を込めた機体を四機も奪うだなんて……! これはもう仕方がない……仕方がないわよねぇ……!」


 マリーは悔しがるどころかむしろ楽しげな笑みを浮かべており、そしてそれは他の黒翼・ヘビー・マシーナリーの技術者達もどうようで、その異様な光景を見てジョットは嫌な予感を覚えた。


「お、おい、マリー? お前、一体何をする気……?」


「こぉんな時こそ、これの出番! これこそが私達、黒翼・ヘビー・マシーナリーの真骨頂!」


 ジョットが話しかけるがマリーは全く聞いておらず、そんな彼女の手の中にはドクロマークが描かれたスイッチがついている小さな箱があり、それを見たジョット達が血相を変える。


『『そ、それはまさか……!?』』


「自爆装置は人類の……いいえ! 宇宙の浪漫! ……ポチッとな♩」


 驚きジョット達の前でマリーは楽しそうにドクロマークが描かれたスイッチを押した。


 ……そしてそれと同時刻、惑星ファイトス付近の宙域で惑星崩壊クラスの大爆発が観測されたのであった。

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