第551話
時は少し遡り、ジョット達がローラ達ネロチェイン男爵家の私設軍を相手に模擬戦をしていた頃。シレイアは魅火鎚の船内にある一室で9543番と10189番と何やら会話をしていた。
他の者達はジョット達の模擬戦を観測している最中で、今この部屋には9543番と10189番、そして彼女達を呼んだシレイアと彼女の車椅子を押すペルルの四人しかいなかった。
「いきなりワタシ達を呼んで一体どうしたの?」
「はい。実は例の兵器の捜索について、9543番様と10189番様にご相談があるのです」
9543番がシレイアに自分達を呼び出した理由について聞くと、シレイアはいつも通りの微笑みを浮かべた表情で答える。
「相談? ……まあ、兵器の捜索のことだったら、いくらでも協力するけど?」
「え、ええ……。そうですね」
例の兵器、アザイアの人類が開発した惑星を破壊する威力を持った兵器の捜索は元々9543番と10189番が頼んだことであるため、そのための協力は惜しまないと二人が言うとシレイアは一つ頷いてから自分の考えを口にする。
「それはよかったです。……私はジョット様達とは別に兵器の捜索をしようと考えていまして、9543番様と10189番様にはそのお手伝いをしてほしいのです」
そしてこの会話からしばらくした後、シレイアとペルルは9543番と10189番と共に、魅火鎚からアザイアの地へと降り立ったのであった。
ローラ達との模擬戦が終わってから数日後。ジョット達はネロチェイン男爵家の私設軍と共に、魔族との戦いに備えた訓練を何度も行い、その事もあってお互いにだいぶ打ち解けることができていた。
そんなある日、訓練が終わるとローラは私設軍の隊員達とジョット達を集めてある連絡事項を伝えてきた。
「……ネロチェイン男爵からの連絡がある。ラックーテン辺境伯家と共に魔族の砦を攻める件なのだが、ラックーテン辺境伯家の準備も整ったらしく十日後に出発することが決まった。全員、十日後に備えて訓練を怠らないように……以上だ」
ローラは連絡事項を伝えるとすぐに去っていき、彼女の姿が見えなくなるとジョット達の近くにいたリードが気合いの入った表情になって口を開く。
「いよいよか……。それにしても今回はラックーテン辺境伯家も随分と準備が速いな。それだけ本気ってことか」
「え? ……ああ、そうだな」
リードの言葉を聞いてジョットは一瞬彼が何を言っているのか分からなかったが、すぐに言葉の意味を理解すると相槌を打った。
以前聞いた話ではラックーテン辺境伯家の兵力は千を少し超えるくらいらしい。ジョット達がいた銀河ではその程度の戦力や物資の補充はほんの数分で終わるのだが、アザイアでは十数人の部隊の編成やそれが消費する物資を揃えるだけで一苦労で、それを踏まえて考えるとリードが感心してもおかしくない。
「ん? どうした? 俺、何か変なことを言ったか?」
「いや……。ローラ様の様子がいつもと少し違っていたから気になってな?」
違和感に気づいたリードに聞かれたジョットは、とっさにローラの様子がおかしかったことを口にする。ジョットの言う通り、今日のローラはいつもと違って元気が無く、リードは顔を不愉快そうに歪めて答える。
「……ああ、どうせまた妹様に両親と仲が良いところを見せつけられたんだろ? いつものことだ」
「ローラ様の妹が?」
「そうだよ。ローラ様の妹は何の特徴もない普通の令嬢だって前に話しただろ? そのせいか妹様はローラ様に劣等感を抱いていてな、よく両親と仲が良いところをローラ様に見せつけるんだよ。妹様からしてみれば両親に愛されていることだけがローラ様に勝っている点だからな」
「それは……」
リードの話を聞いたジョットがローラの家庭の問題は随分と根が深そうだと思っていると、リードは不愉快そうな表情のまま言葉を続ける。
「もう本当、ローラ様が不憫でならねぇよ……。いっそのこと、誰かがローラ様を嫁にしてネロチェイン男爵家から解放してくれたら、スカッとするだけどよ……」
「誰かって誰だよ? ………っ!?」
ジョットがリードの愚痴に内心で苦笑しながらつっこむと突然背中に悪寒が走った。それと同時に背後から視線を感じたジョットが背後を振り返るとそこには……。
『『…………』』
能面のような無表情となったマリー、マーシャ、セレディス、カーリーの四人がどこか責めるような冷たい視線をジョットに向けていたのであった。
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