第550話

「何て言うか凄く分かりやすいよね? まあ、私としては別にいいんだけどさ?」


 模擬戦が終わってた日の翌日。マリーは自分達に割り当てられた宿泊場所を見て呟いた。


 今マリー達がいるのは昨日いたネロチェイン男爵の私設軍の兵舎ではなく、街の大きな宿で一番上等な部屋で、そこの費用は全てネロチェイン男爵家持ちである。そして何故いきなりマリー達が宿泊する場所が変わったのかと言うと、それは模擬戦の結果が大きく関わっていた。


 ネロチェイン男爵家で最強の操者であるローラに勝ったジョット、そしてネロチェイン男爵家でも上位の実力者であった三人の操者を打ち倒したマーシャとセレディスとカーリー。彼らの実力を部下からの報告で知ったネロチェイン男爵はジョット達の扱いを急ぎ変えたのであった。


 マリーだけでなくジョット達もこのネロチェイン男爵の手の平を返す速さに半ば呆れていたが、それと同時に一つの疑問を感じていた。


「だけど実力のある操者を大切にするんだったら、何でネロチェイン男爵はローラに冷たくしているんだ?」


 ジョットがローラとの模擬戦を思い出しながら疑問を口にする。


 模擬戦でのローラは今まで見たことがないくらい実力の持ち主で、彼女のアンスタンが一体いれば大抵の軍隊や魔物の群れは相手にならないだろう。いくら家庭の関係があるとは言え、それだけの実力を持つローラを何故ネロチェイン男爵は冷遇しているのかとジョットが考えていると、そこにマリーが話しかけてきた。


「それなんだけど、私設軍の隊員さん達に聞いた話だと、ローラのアンスタンって強いだけじゃなくて見た目も凄いでしょ? だから彼女のアンスタンが姿を見せた途端に敵の軍隊や魔物の群れが逃げていってたみたいなの。それでローラの活躍を部下からの報告でしか聞いていないネロチェイン男爵は、彼女がどれだけ重要な戦力か分かっていないみたい」


「それはちょっと……」


「つくづく見下げ果てた男だな、ネロチェイン男爵は」


「ここまで実の娘に興味がないなんてある意味凄いよね」


 マリーが模擬戦の最中に私設軍の隊員から聞いた話をすると、それを聞いたマーシャとセレディスとカーリーがそれぞれの感想を口にする。ネロチェイン男爵が愛人との間に生まれたもう一人の娘を溺愛していてローラには関心がないことは知っていたが、ここまでとなると父親としても領主としても最低という評価しか出せなかった。


「……とにかく、ローラのことは可哀想だとは思うけど今は置いといて……それよりも問題があるでしょう?」


「そうね」


「そうだな」


「そうよね」


「……」


 ローラの境遇を考えると場の空気が重くなりそうだったのでマリーが別の話題を出すと、マーシャとセレディスとカーリーが真剣な表情となってジョットの方……正確には彼の少し手前の場所を見る。ジョットの手前の机には二十通近い手紙が山となっており、その全てが女性から送られてきたものであった。


 今日の模擬戦の結果はその場にいた私設軍の隊員達の口から街の住人達に伝わっており、ジョットの実力を知った女性達が彼にこうして手紙を送ってきたのだ。ローラがあれ以上ジョットに興味を持たないように手早く模擬戦を終わらせたのに、結局彼の周りに女性の影が現れたことにマリー達は内心でため息を吐いた。

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