第549話
『『それでは行くぞ!』』
模擬戦が始まると同時に私設軍の操者達が操る三体のアンスタンが動き出すと、それを見てマーシャの操るアンスタンが進み出た。
「それじゃあ、最初は私から行くわね」
「構わん。その代わり、一人で全てを倒すなよ?」
マーシャの言葉にセレディスがそう返すと、マーシャは一つ頷いてから自分のアンスタンを操作した。するとマーシャのアンスタンの両腕がまるで蛇のような動きを見せて長く伸びていった。
「っ!? 何だアレは?」
「腕が……伸びた?」
マーシャのアンスタンの異変に私設軍の操者達は驚きアンスタンの動きを止めるが、それを見てマーシャは次の行動へと移った。
「そこで足を止めていいの? その距離は私の独壇場なんだから!」
マーシャの言葉と同時に彼女のアンスタンは長く伸びた両腕を激しく振り回し、腕と一体化した剣で私設軍のアンスタン三体に切りかかる。私設軍のアンスタン三体はまだマーシャ達のアンスタンと距離が離れているため持っている剣や槍が届かず、一方的にマーシャに攻め立てられて機体に無数の傷を刻まれていった。
「これは……ローラ様と同じ伸縮自在の武装か?」
「このままではマズイ! 一気に距離を詰めるぞ!」
「分かった!」
このままでは何もできないままアンスタンを破壊されてしまうと思った私設軍の操者達は、多少のダメージを覚悟でマーシャの攻撃を防御しながら彼女に近づこうとして、その様子を見てセレディスが口元に笑みを浮かべる。
「そうこなくては面白くない。……マーシャ、もういいぞ。カーリー、二体は私がもらう。一体はお前がやれ」
「分かったわ」
「別に私が二体相手にしてもいいんだけど?」
セレディスがマーシャとカーリーに指示を出すと、マーシャは指示に従って攻撃を止めるのだが、カーリーはわざとセレディスの指示に反論するようなことを言う。
「やめておけ。お前とジョットの戦いはあまり他には見せない方がいい」
「そうだね。了解」
ジョットとカーリーのアンスタンには他のアンスタンにはない特殊機能があるのだが、それは万が一のことを考えて他の者達には気づかれないように使用は控えると以前から決めていた。だからセレディスに言われたカーリーはすぐに引き下がり、私設軍のアンスタンの一体の方へと相手をするべく向かう。
「くっ! だいぶ傷ついたがまだ戦える! これでもくらえ!」
「その程度じゃ……全然駄目だね!」
「………!」
私設軍のアンスタンは傷つきながらもカーリーのアンスタンに向かって剣を振るうのだが、カーリーのアンスタンは右肩の盾で剣を防ぐとそのまま自分も剣を振るい私設軍のアンスタンを切り付けた。すると機体に「二つの大きな切り傷」ができた私設軍のアンスタンは行動不能となってゆっくりと地面に倒れ、それを見下ろしたカーリーが呟く。
「これで終わり? これじゃあ、いつもの戦いと変わらないな。……それでセレディスの方は?」
自分が倒した相手の興味をなくしたカーリーがセレディスの方を見ると、カーリーのアンスタンが私設軍のアンスタン二体と戦っており、その戦いぶりはまるで剣舞を舞っているようであった。
「ふむ……。機体の補助は無く、手足の長さも違ったから不安に思っていたが、中々問題ないようだな」
セレディスの基本的な戦いは、習得した剣術の動きを組み合わせて相手を翻弄するというものであったが、今までは魔物相手には剣術を使うまでもまかったことと、ミレス・マキナとアンスタンの形状が大きく違うことから剣術は使っていなかった。しかしこの模擬戦で実際に剣術を使ってみたら、特に問題がなかったことを確認してセレディスは満足そうに頷く。
「では……そろそろ幕引きと行こうか!」
『『………!?』』
そう言うとセレディスは舞うような動きで剣を振るい、マーシャの攻撃によって機体に傷を負いって満足な動きができなくなっていた私設軍のアンスタン二体はあっさりと頭部を斬り落とされて行動不能となる。こうして模擬戦はマーシャ達の予定通り、短い時間で終わったのであった。
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