第422話

「それで? そのエランっていう俺らの先輩が実家の権力でトライアルに参加できたのは分かったけどよ。そこでどうしてジョットにシレイア様を賭けた勝負をしかけたんだ? ジョットとシレイア様の婚約は国が決めたもので、それに口出ししたらいくら伯爵家でもタダじゃすまねぇだろ?」


「調査の結果によると虹橋・エランは常に高級思想を持っているそうで、衣服から食べる物まで全て一流のものでないと気がすまないみたいですね。そこから考えて、旦那様にシレイア様を賭けた勝負をしかけたのは、自分の隣に立つ女性も最高の女性じゃないといけないと思ったからではないでしょうか? 婚約に口を出した時の責任については最初から頭にないと思います」


 サンダースのもっともな疑問にムムが自分に送られたエランの情報を元にした予想を言って答えると、恋人というより高級なアクセサリーのような感覚で扱われたシレイアが目の笑っていない笑みを浮かべる。


「………そうですか。随分と面白い方のようですね、虹橋・エラン様は?」


「面白いと言うより趣味が悪いだけだろ。……俺が言うのも何だけどな」


 どう見てもエランに対してはらわたが煮え繰り返るくらい怒っているシレイアの呟きにジョットがそう返した。


 ジョットも国からの報酬というような形でムムとマーシャ、セレディスとシレイアと言った侍女と婚約者を得ているが、それでも彼女達を道具やアクセサリーのように扱ったことはなかった。その彼から見ればシレイアを賭けの景品のようにしか見ていないエランは悪趣味としか言いようがなく、本人は気づいていないがその言葉は明らかに不機嫌な感情が感じられた。


「お、おおう……? そ、そうだな。確かに悪趣味だよな。しかしだとしたら今回のトライアルに参加する奴らは不憫だよな」


 珍しく不機嫌そうなジョットに戸惑いながらもサンダースは、これ以上この話を続けない方がいいと判断して別の話題を出し、皆の注目が集まるのを確認すると話を続ける。


「だってそうだろ? 聞いた話だと今回のトライアルはエランのミレス・マキナが正式採用されるのがほぼ決まっている出来レースなんだからよ。今まで必死に頑張ってトライアル用の機体を作ってきたのに、性能を確かめることなく結果が決まっていたらソリャ悔しいだろうぜ。しかもそれが技術者として完全に素人のエランが関わっていたとしたら尚更な」


『『………………………………』』


 サンダースの言葉はまさにここにいる全員が思っていることであり、全員が反論する言葉もなく無言でいるか小さく頷くかのどちらかであった。


 そしてジョットはここに来る前、護衛の任務で一緒に行動していたシャルロットの、技術者として最高の名誉であるトライアルを前にしながらもつまらなそうにしている顔を思い出していた。


「……なあ、マリー? ちょっといい「ジョット君? ちょっといいかな?」……か?」


 何かを思いついたジョットがマリーに話しかけようとした時、彼が言い終わるより先にマリーがジョットに声をかけてきた。


 ほとんど同時にお互いに話しかけたジョットとマリーは、しばらく相手の顔を見てからまた同時に口を開く。


「流石は俺の嫁。同じことを考えていたか」


「流石は私の旦那様。口に出さなくても言いたいことが分かるって素敵だよね」


 ジョットとマリーはそう言うと、何を言っているのか分からない他の者達を放って置いて二人揃って部屋を出てある場所に向かうのであった。

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