第541話
「全く……何をやっているのよ、お兄ちゃん達?」
ジョット達がネロチェイン男爵側で魔族と戦うことを決めていた頃。アザイアの衛星軌道上にある魅火鎚のブリッジではジーナが頬を僅かに赤くしながら呟いていた。
ジーナが顔を赤くしている理由は通信装置から聞こえてくる音声からジョットがマリー、マーシャ、セレディス、カーリーの四人に押し倒されたのを察したからだ。マリー達の行動を察したジーナはとっさに通信装置の音声も映像も切っているのだが、ここから遥か下にいるジョット達は今頃激しい男女の営みを行なっているのだろう。
しかもジーナが顔を赤くしながら呆れているのはもう一つ理由がある。
「マリーさん達も結界システムを転送させるなんてやりすぎでしょ?」
マリー達はジョットを押し倒す直前、物質転送装置を使って魅火鎚からある装置を呼び寄せていた。
呼び寄せたのは内部の音を外に出さず、侵入者を立ち入らせない一定の広さの空間を作り出す結界システムという呼び名の装置であった。そんな装置を呼び出して邪魔者を完全に排除するマリー達を見て、一体どれだけ激しい行為をするつもりなんだとジーナが呆れているとそこにムムが話しかけてくる。
「別に構わないのではないですか? いいえ、今の旦那様は一刻もはやく子供を作ることを求められていますから、むしろ今回のマリー様達の行動は歓迎すべきだと思います」
ムムの言う通り、マリーを初めとするジョットと結婚あるいは婚約した女性達は社会的に上位の立場にいる女性ばかりで、シレイアに至っては大清光帝国の皇女とほぼ最上位の立場である。そんな女性達と旦那となったジョットにはできるだけ早く子供を作ってほしいと周囲に思われており、もし長期間子供ができない状態が続いたら周囲に不安が生じて、それが原因で何かの問題が起こる可能性も否定できなかった。
「大清光帝国とリューホウ王国、そして二カ国と同盟を結んでいる国の平和は旦那様の下半身にかかっていると言っても過言ではないのです」
「それって何かヤダ。……って、アレ?」
「………」
ムムの言葉に何とも言えない表情となっていたジーナは、同じブリッジにいるシレイアの様子がどこかおかしい事に気づく。
「あの、シレイア様? 一体どうしたんです……か……?」
「ズルいですズルいですズルいですズルいですズルいです……! 私は下半身が不自由だから傭兵のフリをするのは不自然だからという理由で留守番をしているのにマリー様もマーシャ様もセレディス様もカーリー様もズルいです。私だってジョット様と一緒にいたかったのに、私だってアンスタンっていう面白そうな兵器を使って戦ってみたかったのに、それを我慢しているんですよ? そんな私を除け者にしてジョット様とたくさん愛し合うだなんてマリー様もマーシャ様もセレディス様もカーリー様もズルいですズルいですズルいです……!」
「………!?」
車椅子に座っているシレイアは俯いた状態でマリーとマーシャ、セレディスとカーリーに対する嫉妬の言葉を延々と呟いており、彼女から感じられる負の圧力にジーナは思わず引いてしまった。シレイアの車椅子の背後にいるペルルも首を横に振って「今は刺激しない方がいい」とジーナに無言で忠告していた。
あまりのシレイアの迫力に魅火鎚に残った人間は彼女にあまり近寄らないようにしたのだが、これが原因で後に大きな騒ぎを起こすことになるのだった。
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