第475話

 ギラーレ同盟の国民達はほとんどが「自分達は特別な存在である」という根拠のない自信と特権階級意識を持っており、そのせいかギラーレ同盟の国民達には自主的に努力をしようとする者が少なかった。


 そんな「自分が何にもしなくても誰かがやってくれるだろう」という他力本願な意識があるギラーレ同盟の軍隊は、ミレス・マキナを初めとする兵器の性能や機士を初めとする兵士達の練度が他国と比べて大きく劣っているのだが、唯一他国に比べて勝っている瞬間がある部分が存在する。


 それは「行動力の速さ」である。普通、軍隊に限らず複数の人間が集まった集団というのは動く人が多ければ多い程、その為の準備やら手続きが膨大で動きが遅くなるのだが、ギラーレ同盟の軍隊は時に末端の兵士だけでなくそれを統率する上官まで規則を無視して行動することあり、それが他国の軍隊では実現出来ない行動の速さを発揮するのである。


 ……まあ、要するに末端の兵士だけでなくその上官まで、感情に任せた行き当たりばったりの行動を取ることがあり、それがたまたま上手く行くことがあるということだった。


 はっきり言って感情に任せて行動……というか暴走する軍隊なんて軍隊ではないと思うのだが、それでもギラーレ同盟の軍人が他国の軍隊も驚くくらいの行動の速さを見せる時は確かにあるのだ。……そう、例えば今回のように。



「(時間が来たら、同胞達が我々の所へ来てくれる。……そう言う手筈だったな?)」


「(そうだ。そしてその後は同胞達と合流してここから脱出するのだ)」


 黒翼・ヘビー・マシーナリーの会社内にある試作兵器のテストパイロット用の部屋で一人のテストパイロットが小声で話しかけると、もう一人のテストパイロットも小声で返事をする。


「(よし。……それにしても、この地獄から脱出するチャンスを作ってくれた本国と、そのチャンスを掴んで即座に行動に移してくれた優秀な同胞達には感謝しかないな)」


「(そうだ。これ程迅速な動きを取れる優秀な兵士達はギラーレ同盟にしかいないだろうな)」


 これからの予定を確認してテストパイロットの一人であるゲケッツが小声で言うと、もう一人のテストパイロットであるゴームがやはり小声で答える。


 ゲケッツとゴームはギラーレ同盟の軍人であり彼らは以前、アレス・ランザを製造した黒翼・ヘビー・マシーナリーにアレス・マキナ並みに高性能なミレス・マキナを製造するように交渉……というか恐喝をしていたのだが、その最中にアレス・ランザの所有者であるジョットに出会ったのだった。そこでゲケッツとゴームはジョットに「アレス・ランザを譲れ」という大清光帝国とギラーレ同盟の関係を悪化させかねない信じられない要求をして、それが叶わないとなると黒翼・ヘビー・マシーナリーに潜入してアレス・ランザを強奪しようとして、そこを黒翼・ヘビー・マシーナリーの従業員に捕まったのである。


 それ以来ゲケッツとゴームは、自分達に罪を精算するために黒翼・ヘビー・マシーナリーのテストパイロットとして強制的に働かされていたのだが、今日ギラーレ同盟が大清光帝国に宣戦布告したという情報が来ると同時に、自分達と同じく強制労働をさせられているギラーレ同盟の軍人達からある行動……つまり黒翼・ヘビー・マシーナリーからの脱出の誘いが来たのだった。


「(それでアイツらはどうするんだ?)」


「(アイツらか……)」


 ゴームと聞かれてゲケッツは、自分達と同じ部屋で眠っている二人のテストパイロットに視線を向ける。彼らはゲケッツとゴームとは違う国出身だが、彼らと同じある罪を犯して黒翼・ヘビー・マシーナリーでテストパイロットの仕事を強制されている者達であった。


「(放っておけ。起きていたら弾除けか囮として連れて行ってやっても良かったのだが、こんな時に眠っている愚図を連れて行く余裕は我々にはない)」


「(そうだ。こんな時に眠っているとは呑気な奴らだ)」


 ゲケッツとゴームが眠っている二人のテストパイロットを見て馬鹿にしていると、彼らがいる部屋へ早速脱走を開始したギラーレ同盟の軍人達がやって来て、ゲケッツとゴームはギラーレ同盟の軍人達と合流すると部屋から出ていくのであった。そしてそれから少しすると、部屋で眠っていたはずのテストパイロットの一人がもう一人のテストパイロットに話しかける。


「なぁ、コラックよぉ……。あのギラーレ同盟の奴ら、ここから脱出できると思うか?」


「できるわけねぇだろ、常識で考えろ。さっきギラーレ同盟の軍人が部屋に来た時、いつもだったらかかっている鍵がかかっていなかったろ? その時点で泳がされているって気づけよな、ギラーレ同盟の馬鹿どもは。……まぁ、ギラーレ同盟の奴らがどれだけいて、どれだけ効率よく動けているのかは分からんが、黒翼・ヘビー・マシーナリーの連中の試作兵器のモルモットにされて終わりだろうよ。ウーボもあんな馬鹿共のことなんか置いといてさっさと寝ろ。明日も朝が早いんだぞ」


「それもそうだな」


 テストパイロットの一人、ウーボがもう一人のテストパイロットに話しかけると、もう一人のテストパイロット、コラックはそれだけ言って寝直してウーボも同じく寝直すのであった。

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