第445話

 9543番から自分の仲間が惑星エイロンに戦闘用の分身体、ゲムマを送り込んだという話を聞いた翌日。ジョット達は魅火鎚に乗って惑星エイロンから遠く離れた宙域に移動していた。


 ジョット達が惑星エイロンから離れた宙域に向かっているのは9543番の仲間の狙いがジョットとの戦いであるため、その戦いに惑星エイロンを巻き込まないためであった。


「ねぇ? エイロンから離れるのはいいんだけど、その9543番さんの仲間がエイロンにお兄ちゃんがいないからって、真道学園の生徒や教官に戦いを挑んだらどうするの?」


「ううん。それはないね」


 惑星エイロンにある真道学園には、ジョットと同じアレス・マキナの機士である三田教官を始めとする実力のある教官や生徒が多数在籍している。もし9543番の仲間がそちらに興味を持って戦いを仕掛けたらどうするのかと、魅火鎚の待機室でジーナが疑問を口にするとそれに9543番が首を横に振る。


「ワタシの仲間、そいつは8789番って呼ばれているんだけど、8789番はすでジョット君がエイロンから離れたことに気づいてコッチに向かって来ているよ」


「そうなんだ……。まさかゲムマの標的にされる日が来るだなんて思いもしなかったな」


 同族である8789の接近を感知している9543番の話を聞いて、自分個人がゲムマに狙われているという事実にジョットが不安を感じていると、マーシャが励ますようにジョットに話しかける。


「大丈夫だってジョット君。今までの9543番の話を聞く限りだと、相手はこちらの命までは取らないみたいだし。それにその8789番? との戦いは私達も一緒に戦うし、護衛の人達もいるから大丈夫だって」


 マーシャの言う護衛とは、今ジョット達が乗っている魅火鎚の周囲に同行している三隻の軍艦のことである。この三隻の軍艦は元々、大清光帝国の皇帝が9543番の調査と監視のために送った軍人達なのだが、シレイアから8789番の話を聞いた皇帝の指示でジョット達の護衛として今回の戦いに参加してくれることになったのだった。


「……確かに、ワタシ達は人類そのものには攻撃はしないけど、それでも気をつけた方がいいかもしれないよ。8789番は基本的にやることが無茶苦茶で加減ってものを知らないから。……正直、どうして8789番が遊びを続けるためとは言え、ワタシ達の言葉を聞いて自分の行動を我慢していたのか不思議なくらいなんだ」


 9543番がジョットに注意するように言うと、セレディスが以前彼女から聞いた話を思い出して9543番に話しかける。


「そう言えば、その8789番とやらは私達との戦いでいつも何かをやらかそうとしていたと言っていたな? 8789番がやろうとしていたこととは何だ?」


 セレディスの質問に9543番は肩をすくめて答える。


「大したことじゃないよ。8789番がしようとしていたのは戦闘用の分身体……ゲムマの強化と改造さ」


「ゲムマの強化と改造?」


 9543番はジョットの言葉に一つ頷いてみせると話を続ける。


「そう。君達人類は自らの兵器を常に改良してきた。だったらこちらもゲムマを強化すれば、より楽しい戦いが出来るんじゃないかと8789番は考えているのさ。でもワタシ達のゲムマは今のままでも人類の兵器に勝つことができるし、いざとなれば精神波を遮断して人類の兵器を無力化させることもできる。そこに更にゲムマを強化したら戦力の差がつき過ぎて遊びにならないと言う結論になって、ワタシ達は8789番の行動を止めていたんだ」


「随分と上から目線だな。……しかしゲムマの強化と改造か」


 セレディスは9543番の話を聞いて不愉快そうに呟いた後、あることに気づくとセレディスと同じことを考えたシレイアが口を開く。


「まるでゲムマの黒翼・ヘビー・マシーナリーですね。……どの世界、所属にも変わった考えを持つ方はいるのですね?」


『『………………』』


「ちょっとそれってどう言う意味!?」


 シレイアの言葉にこの場にいるほぼ全員が頷き、納得がいかないマリーが大声を上げた。

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