第446話

「それよりジョット君? どうして彼がここにいるの?」


「え? 俺?」


 9543番が指差した先にいたのは、大清光帝国の高官からの指示を受けてジョット達に同行することになったベックマンだった。突然話を向けられたベックマンが聞くと9543番は心配そうな表情を浮かべて頷く。


「そうだよ。君みたいな、いつ死んでもおかしくないマイナスの運命力を持った人類が戦場に行くのはおすすめできないかな? 8789番は本当に何をするか分からないから、それが君にどんな不幸にもたらすのか予想もつかないんだ。悪いことは言わない。君は帰った方が良い」


「い、いや……。そんなことを言われても……」


 どうやら9543番の目にはベックマンが今にも死んでしまいそうな可哀想な生物に見えているらしく、真剣に彼のことを心配して言っているのは分かるのだが、ベックマンはそれに頷くことはできなかった。


 本音を言えばベックマンだってこんな戦いには同行したくないし、それ以前にゲムマの正体なんて明らかに厄介ごとにしかならない秘密も知りたくはなかった。しかし高官からの指示に逆らうことなどできるはずもなく、こうしてジョット達に同行しているのである。


「……あっ!」


 ベックマンが9543番にどう答えようか考えていると、急に9543番が驚いた顔となる。


 他者の運命力……幸運や不運を感知できる9543番は今この瞬間、ベックマンの周囲に漂うマイナスの運命力、不運の濃度が濃くなったのを感じて、それによって彼の事情が分かった気がした。本当はベックマンもこんな戦いには参加したくはないのだが、「不幸」にも彼の周りの環境のせいで戦いに参加せざるを得ないということに気づいた9543番はベックマンに小さく頭を下げて謝罪する。


「あー……その……ゴメン。君の事情も考えずに勝手に帰れなんて言っちゃって。……でも本当に気をつけてね? 8789番との遊び戦いは何が起きるか分からないから」


「……………………………………………………ありがとう」


『『……………………………』』


 ここまで自分のことを心配してくれているのが人類ではなくゲムマであるという事実に、ベックマンは泣きそうな気分となり数秒間の沈黙の末に小さな声で9543番に礼を言い、そんな彼の姿にジョット達が何を言えばいいか分からずにいると、魅火鎚の艦内に敵襲を報せるアラームが鳴り響いた。


「この感じ……8789番が来たみたいだね」


 アラームが報せる敵襲が同族の8789番だと気づいた9543番が言うと、それを聞いたジョットはすぐさま自分達の機体に乗って出撃するため格納庫へ向かった。そしてそれから十数分後……。



「あれが……8789番なのか?」


「ああ、間違いない」


 宇宙空間でアレス・ランザと意識を一体化させたジョットが目の前の光景を見て呟くと、アレス・ランザの肩の上に立つ9543番が頷く。


 ジョットの意識と一体化したアレス・ランザの前方には人の形を巨大な岩石の塊、ゲムマとその上に浮かぶ一人の人物の姿があった。


「ぬっふっふ……! ようやく会えたであ~るな、我が宿命のライバル、祭夏・ジョットよ。ワガハイは8789番。貴様と会える日を一秒千年の思いで待っていたのであ~る」


『『…………………』』


 ゲムマの上に浮かぶ人物、8789番は腕を組み不適な笑みを浮かべて言葉を放つのだが、ジョットを初めとする9543番以外の全員は8789番の姿に気を取られて話をほとんど聞いなかった。そしてやがてムムがジョット達の代表となって、この場にいる全員の気持ちを口にする。


「ちょっと待ってください? スクール水着の上にダボダボの白衣を羽織ってメガネを装着した幼女って、キャラが濃すぎませんか? ドクトルダイバーの親戚ですか?」






~後書き~

 ちなみに8789番が装着しているメガネは度の強い丸メガネです。

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